Vol.74 ドローンのハードウェアの規格化・標準化[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

前々回のコラムで、「ドローンが重要な位置付けになるにつれて、重要なのは運用を含むドローンシステムをどうしていくかということになっていく。やはり、その際に一番重要なのは、ドローンのプラットフォーム戦略をどうしていくかということになるだろう」とプラットフォーム戦略の話を書いた。

https://www.drone.jp/column/2023111518360776315.html

そこで書いたのはソフトウェアを中心とした話であったけれど、それと同様に重要なのはハードウェアの規格化や標準化という話であろう。

ドローンのフォームファクタ

「ハードウェアの規格化・標準化」を考えた場合、何を参考にしたらいいかということがあるが、PCのフォームファクタを例にとって、考えてみよう。

「フォームファクタとは、コンピュータの主要システム部品について物理的な寸法やレイアウトを規格化したものである。」 「特にPC/AT互換機では、フォームファクタに準拠することでベンダー間や世代間で部品交換可能であることを保証している。業務用のコンピュータでは、サーバモジュールが既存のラックマウントシステムにぴったり収まることを保証している。」 「フォームファクタの中でも最も重要で古くから使われてきたものとしてマザーボードの形状規格があり、ケースの大きさを左右する。マザーボードはより小さいフォームファクタ(スモールフォームファクタ)のものが開発され実装されてきたが、さらなる縮小には電源回路の技術革新が必要である。新世代の部品が開発されると共に、マザーボードの新規格も生まれてきた。」

(以上、Wikipediaから引用)

PCではその主力部品であるところのマザーボード、そして、そのマザーボードを収めるケース、そのケース形状とマザーボードの規格にあった電源というものが一体となって、ハードウェア(特にデスクトップPCでは)が形成されてきた。

PCの場合はその主力部品であるマザーボードに関しては、当初IBMが策定していたが、その後は基本的にはインテルやチップセットのメーカーであるVIAがその規格を策定して提供していた。

インテルが初めて策定して1995年に市場投入したマザーボードは、ATXというフォームファクタであった(現在でも小売りされているマザーボードで一番人気がある)。当時、筆者は三井物産デジタルというIT商社に勤務していたのだが、そこでインテルからそのATXのマザーボード(インテル製のマザーボード!)の供給を受け、ホワイトボックスPCとして販売し始めることになった。(当時はDOS/VというPC/AT互換機上で稼働し、日本語専用のハードウェアを必要とせずに、ソフトウェアだけで日本語表示を可能にしたOSを搭載したPCであった。) そのPCの名前がPCiNであり、(元々PCiNTという名前をつけたが、インテルからNGが入り、PCiNとなった。インテルはCPUをPCメーカーに供給していたため、インテルがPC本体に乗り出すと思われるのを警戒したのだ)そのPCを販売するアンテナショップとして秋葉原にオープンしたのがPCiN秋葉原であった。 (その後、筆者はそのPCiN秋葉原の店長とかも経験し色々なエピソードもあるのだが、長くなるので略)

閑話休題。

ドローンのフォームファクタというものを考える場合、それをリードする企業がなかなか見当たらないが、やはり当初はDJIであったのだと思う。

2013年ぐらいから、DJIはF330、F450、F550というフレームを提供し、NAZA-MといったフライトコントローラーやESC、モーター、プロペラとともにキットとして提供していた。

https://www-v1.dji.com/jp/flame-wheel-arf/spec.html

当初は多くのドローンメーカーやドローンサービサー、ドローンユーザーがこのDJIのフレームキットを購入し組み立て、必要なペイロードを搭載して、ドローンが何に使えるかを検証していた。筆者自身も一番初めにドローンの組み立てを行ったのは、F450のフレームキットであった。

そんなこともあり、日本においては国産の機体メーカーであっても、2021年ぐらいまではDJIのNAZA-Mやその後のA3といったフライトコントローラーを搭載したものが多かった。(現状では日本政府のセキュリティリスクによる中国機体の排除もあり、DJIのフライトコントローラーを搭載している機体メーカーは少なくなった。)

ドローンのフォームファクタをどう定義していくかというと、PCではマザーボードを中心として組み上げていったが、ドローンはペイロードの重量に合わせて、機体フレーム、ESC、モーター、プロペラ、バッテリーといったものをきちんと規格化していくのが良いのではないかと考えている。

上記フレームや部品に対してのサイズや接続といった規格だけでなく、そこには各種部品におけるソフトウェア上の接続プロトコルといったものも規格する必要がある。

特にペイロードが重量化するにつれて、フレームに関しては大きな負荷がかかってくる部分であり、構造設計的にも費用もかかってくるところであるので、機体メーカー間で共通化できるようなものがあるとよい。

また、ペイロードの接続に関しても規格化する必要がある。これはDJIのX-PortやE-Portといったものが、様々に構造も含めて参考になるだろう。

また、物流という点でいけば、現在、バラバラとなってしまっている搭載コンテナと物流ポートの規格化も重要であるし、今後、実証から実用に向けては、この部分が最優先ではないかと思っている。(海上輸送において、革命をもたらしたものが「コンテナ」の存在で、これにより、「安全に」「安定的に」そして「高効率に」輸送が可能になった。この辺は「コンテナ物語」が面白い。)

そして、この「コンテナ」も「ポート」もDXを視野に置き、サプライチェーンマネジメントといった情報伝達の仕組みもそこにきちんと組み込んでいくことも重要だ。

今回、経済産業省の令和4年度二次補正予算 中小企業イノベーション創出推進事業(通称SBIR)で、VFRが「行政・民間の現場ニーズ(長距離/長時間飛行・自動運航)に対応できる高性能ドローンポートの開発」で20億円程度の採択を受けた。すべての機体メーカーやその他関連するシステムをつなぐことができるようなベースになるポートを開発してもらいたい。

ハードウェアの中の重要部品

フォームファクタといったハードウェアを規格化・標準化していくことは、現在ある技術を最大限引き出すといった面とコストを低減していくといった面がある。

マルチコプタ型のドローンにおいて、その両面において、重要なハードウェア部品はモーターとバッテリーであろう。

しかし、そのモーターとバッテリーに関しては、現在、中国企業の優位性が圧倒的だ。既にEV市場において、そのリスクは露呈しており、テスラは既存のリチウムイオンでの自社開発を強化してきている。トヨタはどちらかというと全固体電池に重きを置いた形で中国の影響を軽減しようとしている。

中国は超小型EV(マイクロEV)や電動マイクロモビリティといった市場でも生産台数を急増させ、既に中国を中心に部品市場が形成されている。

その波が、eVTOLという、いわば空飛ぶクルマの市場に拡大してきている。

eVTOLに関しては、バッテリーも重要ではあるが、それ以上にモーターが重要となってくる。それは機体の軽量化に伴う、搭載数の多い「ローター」の軽量化だ。現在、この競争において優位に進めているのは、ハネウェルと提携してeVTOL向けの電動モーター開発に力を入れているデンソーだ。しかし、デンソーは、現在、ドイツの「LiLium」社のeVTOLに採用され、先行して開発されている。

これはeVTOLの運行システムを開発しているハネウェルとの関係性に因るものだ。ハネウェルは「Anthem」という運行システムを開発し、現在、Lilium、Vertical Aerospace(英国)、Archer Aviation(米国)に対して技術支援を行っている。(ハネウェルはこういったスタートアップがeVTOLなどの航空機の認証を取るためのサポート情報も提供している。)

周辺のシステムや部品を提供するエンタープライズ企業は、こういったハネウェルが実施しているようなオープン化とクローズ化を組み合わせる戦略「オープンクローズ戦略」が参考になるだろう。

EVやマイクロEV、eVTOLで起きている競争は、当然、現状のドローンでも同じ課題を持っている。どうやったら、中国のバッテリーメーカーやモーターメーカーに勝つことができるのかということもあるが、中国政府の貿易戦略いかんによっては、日本でのドローンの製造がままならないといったケースもありうる。そんな中で調達のパイプを国内において拡げていく仕組みを国としても考えていかねばならないだろう。

それにはこういった規格化・標準化といったことを通じて、一本化を図り、それを現在、急速に市場が拡大している東南アジアやインドといった国々に展開していくことを視野に収めて進んでいくことが重要だろう。

また、バッテリーやモーターといったものにおいては、どうしてもレアメタルやレアアースの問題も絡んでくることもあり、その調達ルートをいかに確保するかというのも一企業だけでは難しく、国として取り組まなければならない課題だろう。

そして、ドローン業界としても、リサイクルといったシステムを早急に構築し、いわゆる「都市鉱山」の確保に努めるといった活動も重要になってくる。

© 株式会社プロニュース