“近くて遠い” 外国人技能実習生を知ろう 来日後の泊まり込み研修を体験! 同じ地域で暮らす人同士の交流会も… 東広島市

全国で34万人が働いているという外国人技能実習生。かつて、痛ましい事件を経験した地域でベトナム人技能実習生と地域住民が参加する交流会が開かれました。

広島大学 大池真知子 教授
「実習生が大変だ、問題だ、解決しよう、というのでなくて、もうちょっと身近な自分自身の問題として捉えられるようになれば」

“近くて遠い”技能実習生を知ろうという新たな取り組みとはー。

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青山高治 キャスター
きょうは外国人技能実習生についてです。広島県は技能実習生が全国的にも多いんですよね。

中根夕希 キャスター
1993年に始まった技能実習制度。2022年10月末時点で、広島で働く外国人労働者の4割弱が技能実習生なんです。1万4千人余りというのは全国では6番目に多く、その中で国籍別でみると半分以上がベトナムの方なんです。よくいらっしゃることは聞きますが、この“近くて遠い”技能実習生の暮らしを実際に体験してみようというワークショップが行われました。

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「番号1・2・3…」

東広島市志和町にある技能実習生の研修センターです。この日は、日の出前から朝の体操が始まりました。

来日したばかりの技能実習生は、受け入れ先の企業で働く前に1か月間、泊まり込みで研修します。

内容は日本語などの座学だけでなく、日本式のあいさつや整理整頓、清掃、自治体ごとに異なるゴミの出し方まで…。職場でできるだけスムーズに働けるように、さまざまな文化圏で育った若者たちが、日本の生活様式全般を学びます。

ワークショップの参加者
「彼らはいきなり外国から来て、これ1か月か…と思いながらやっています」

この日、参加していたのは実習生ではなく、地元の農家や実習生を受け入れる企業の人事担当者など。技能実習生を知ろうというワークショップの一環です。

介護業 人事担当者
「外国人の方を職場で雇うにあたって、どういう労働環境を用意しなくてはいけないのか、それにどんな課題があるのかわからなかったので、ぜひ参加して体感しようと思って」

外資系企業 勤務経験者
「好きになることと理解すること、協調することって違うと思う。合わないものは合わない。でも、それをちゃんと理解して、ちゃんと距離を取りながらも、上手に共存できるやり方っていうのが、とっても今から大事だと思う。それがこの会で学べると思ったんです」

実は今回のワークショップの開催期間は2泊3日。スタッフを含めて20人近くが寝食を共にするという気合の入りようです。

企画したのは広島大学の教授らで、世界各地で「他者との共生」のためのワークショップを実施する「シダー」という市民団体の手法を取り入れています。

NPO法人シダー代表(ボストン大学) アダム・セリグマン 教授
「少しだけとはいえ、実習生のここでの生活がどんなものであるかを、頭で知るのではなく身体で経験することは、大きな知識と深い理解をもたらします」

広島大学 大池真知子 教授
「ただのスタディツアーだったら、実習生の問題について、わたしたちは考える側、実習生は考えられる側なんですけど、もっと自分の中で自分の問題として考えられるようにできるのが、この “シダー” の特徴だと思っているので」

東広島市志和町では4年前の秋、ベトナム人技能実習生の女性が出産後、まもなく死亡した子どもを庭に遺棄するという事件が発生しました。

また安芸津町でも去年春、同様の事件が発覚しました。どちらも妊娠がわかれば帰国させられると思い、周囲に十分に相談しないまま、たった1人で臨んだ出産の末の事件でした。

ワークショップのメインイベントは、最初の事件現場から目と鼻の先の集会所で開かれました。

広島大学 大池真知子 教授
「まだご飯の準備ができてないんですけど、この会を始めたいと思います」

この地域の工場で働くベトナム人技能実習生との交流会です。そこには地域住民も加わりました。ポイントは「簡単な日本語を使うこと」。方言は難しいので “じゃけえ” は禁止で盛り上がりました。

参加者
「ベトナムの家で料理作りますか?」

ベトナム人実習生たち
「わたしは作りません」
「楽しいです。みんな親切です」
「きょう、メチャ楽しいです」

Q.お腹いっぱい食べた?
「はい。けっこう食べています」
「もうちょっと食べます」

仲良くなったグループは、実習生が暮らす近所の寮を見に行くことにー。

広島大学 大池真知子 教授
「地域の人たちを呼んでいるのは、実際に広島大学がワークショップをやりました、はいわかりました、さようならというのではなく、やっぱり地域の人もやってよかったな、これをきっかけにして何かできたなっていうことをもちろん地域に返したいので」

違いのある人たちが違いがあるまま、認め合って暮らしていくには、何かを一緒にやることが一番いいと、セリグマン教授は言います。

NPO法人シダー代表(ボストン大学) アダム・セリグマン 教授
「一緒にゴミ出しをするとか、一緒にとんどをするとか、何をするにしても努力しなくてはいけない。一緒に何かをやるためには、居心地の悪さを乗り越えていかないといけないから」

参加した地域住民たち
「今までは顔も見たことない人ばっかりだったんで、そこで話をして、こういう人たちが住んでるんだなっていうのがわかれば、安心感にもつながるし」
「知らないから “どんな人だろう“ ってわからなくて、“怖い” っていうイメージを持ったりということが多いと思うので、お互いに知り合うのはすごい大事」
「1回、顔を合わせておけば、次に会ったとき、あいさつもしやすいかなって」

馬宿自治会 新迫健司 会長
「これをきっかけに名前を呼んだり呼んでもらったりという関係にできたらいいなと思う。いい会になってよかったです」

実習生の中には、この翌週のとんどに参加した人も…。ワークショップをきっかけに少しずつ、実習生と地域との距離が近づいています。

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青山高治 キャスター
お互いの文化や生活を知ることで、実習生の方も「このまちで暮らしている」という感覚になるんだと思います。

中根夕希 キャスター
2泊3日の研修では、この交流会以外にも地元住民が参加する場面があり、今後の交流のアイデアについて▽リサイクル市、▽スポーツ大会、▽音楽イベントなどが上がったそうです。またこの会は、何かしたいけれど、どうすれば?と思っている人たちにとっては、仲間づくりの場にもなったということです。

30年続いてきたこの技能実習生の制度にはさまざまな問題点が指摘され、今、見直しが進んでいます。そんな中、制度だけでなく実習生と地域との関係性もこれまでとは違う関わり方が必要になってきています。

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