〈1.1大震災~連載ルポ〉女性目線乏しい避難所 気苦労絶えず負担

女性ならではの困りごとを話す宮下さん(左)と堀岡さん=19日、輪島市内

  ●毛布の中で着替え トイレは夫同伴で

 22日で発生から3週間となった能登半島地震では、今なお避難所に多くの被災者が身を寄せる。入社1年目の夏から1年間勤務した輪島市も、高齢化が深刻な地域とあって、各施設にはお年寄りが目立つ一方、20~30代の若者の姿もある。ただでさえ不便な避難生活だが、特に妙齢の女性には、女性ゆえの、口には出しにくい苦労があった。(小松支社・森田蕗子)

 200人超が避難する輪島市門前中。高齢者に交じって生活を送るのは同市門前町日野尾の宮下杏里さん(32)。疲れ切った表情が過酷な暮らしを物語っていた。

  ●性別で区切りなし

 宮下さんが過ごす教室には男女が各10人程度いるが、性別による居住スペースの区切りはない。ほとんどが同じ地域に住む顔なじみとはいえ、プライバシーは全くないという。

 着替え一つとっても簡単ではない。周囲の目を気にしながら、毛布にくるまって服を脱ぎ、そして着る。想像しただけでも至難の業だ。宮下さんは最長2週間、風呂に入れず、「頭がかゆくてかゆくて。丸刈りにしようかと本気で思ったくらい」と明かす。

 インフルエンザにかかった際は、感染拡大を防ぐため別室に移され、外に出ることもままならなかった。その時は机に潜って前に布団を積み上げ、隠れて体を拭いていたという。

 6歳の長女と4歳の長男がいる堀岡晴海さん(37)は、子どもが熱を出し、一緒に隔離されることに。日中、夫は仕事に出ているため、1人で子ども2人の面倒を見た。「周囲を頼ることもできないし、本当につらかった」と振り返る。

  ●不審者のうわさ

 避難所の外には仮設トイレが設けられていた。もしやトイレまで共用かと思いきや、こちらは男女別々で安心した。ただ、中には1人で利用できない女性もいる。30代の女性は「外にあるから夜は怖くて。旦那について来てもらってます」。一時、避難所近くで不審者が出たとのうわさが流れたこともあり、不安になるのも無理はない。

 実際、輪島市内では一緒に車中泊をしていた10代女性の体を触ったなどとして、不同意わいせつの疑いで金沢市の男が逮捕された。こうした性犯罪を防ぐためにも男女で仮設トイレの場所を離し、しっかり分けてもいいのではと思うが、そこまでの配慮は行き届いていない。

 避難所で暮らす別の女性からは「気苦労も絶えない」と愚痴を聞いた。掃除や炊き出しは女性に任されることが多いといい、「男性だって汚すし、食事もするのに不公平」。

  ●お化粧もしたい

 「本当は、お化粧して取材を受けたかった」。顔を洗えず、毎日すっぴんで過ごしているという宮下さんは別れ際、残念そうに話した。「でも、『こんなときにおしゃれなんかして』っていう雰囲気もあるし、なかなか難しい」。避難所には、女性目線がまだまだ足りない。

  ●「運営に女性必要」/防災士の髙野さん「意見くみ取りやすく」 

 奥能登や金沢などの1.5次避難所でボランティア活動を行っている、小松防災士の会の髙野明美副会長(60)は「避難所運営に女性は絶対に必要だ」と訴える。

 奥能登の避難所では高齢者向けの下着や大人用おむつが多く用意される一方、若い女性のための生理用品などは少ないのが実態。下着を乾かすために、遠方のコインランドリーに通う人もいるという。男女でトイレの場所を離すことなども必要だと話す。

 実際に被災地へ足を運んだ髙野さんは、女性への配慮が行き届いていないとし、「悩みを訴えられない女性はたくさんいる。そうした意見をくみ取りやすい体制が重要だ」と話した。

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