県下一周駅伝の「レジェンド」 第70回大会最高齢選手の末吉さん 感謝伝えるレースに

「持てる力のすべてを出し切りたい」と意気込む今大会最高齢ランナーの末吉=佐世保市

 チームに出場を依頼された際、一度は断った。3月に63歳になる年齢のこともあるが、昨夏に右膝を痛めて満足な練習を積めていなかった。でも、会う人会う人に言われた。「まだ走りよっと」「今度も出ると」と。今大会の最高齢選手、平戸の末吉範平(62)=佐世保市交通安全協会=は覚悟を決めた。「第70回の今年が最後だと聞いていた。迷惑をかけるかもしれないけれど、感謝を伝えるレースにしたい」
 猶興館高時代は相撲部に所属。卒業後の1979年に警察官を拝命して本格的に走り始めた。以降、県下一周駅伝は84年の初出場を皮切りに、勤務地だった長崎からの出走を挟んで35回出場。区間賞10個を獲得した。「毎年の目標になっていた」
 40歳を超えれば距離が短い壮年区間の対象となるが、58歳で挑んだ2020年の前回大会も一般区間を担い、選手不足に悩む古里のチームを支え、勇気づけてきた。小場俊雄総監督(ダイコウ建設)は「平戸の宝」と同学年の功労者をたたえた上で「“よいしょこいしょ”と無理しながら走ってくれているのは分かっている。でも、末吉君ならと、ずっと頼りにしてきた。絶対に出て最後を飾ってほしい」と敬意を表している。
 過去3年間、コロナ禍で大会が中止になった間に還暦を迎え、体の不安を感じることも増えた。「タイムが伸びている年齢のころは“ああ楽しいな”と思っていたけれど、今は練習していても“このコースは60分でいけたのにな”と感じたり、足元が暗い早朝は走るのをためらったり。心の持ちようが難しくなった中、健康維持のために続けている」と穏やかに笑う。
 精神的につらいことも多かった。県下一周は「恒例の家族行事」でもあった中、20年に兄、沿道で声援を送ってくれていた叔母を22年に亡くし、昨年は母が87歳で旅立った。「“体に気をつけて頑張らんばよ”といつもみんな応援してくれた。心の支えだった」。そう涙を拭って前を向く。
 大切な思い出の数々をつむいできた大会の最後となる今年は、28日の壮年区間(5.5キロ)に出走予定。「高校を出て離れた古里への思いが、たすきでつながっていく大会。最後までチャンスを与えてもらった。とにかく感謝、感謝の大会にできるように、自分の持てる力のすべてを出し切りたい」
 高校生や大学生、実業団のトップ選手だけではなく、数多くの市民ランナーが育ち、輝いてきた舞台。それを体現してきたレジェンドは完全燃焼を誓っている。
    =敬称略=

2007年の第56回大会。第1日の第8中継所でたすきを受けて走り出す末吉=佐世保市

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