津波警報、避難者の帰宅判断に苦慮 本県沿岸部自治会に緊急調査

 能登半島地震を受け、山形新聞は約40年ぶりとなる津波警報が出された本県沿岸部の自治会に緊急アンケートを行った。避難所に身を寄せた住民の帰宅を認めるか否かの判断に苦慮したほか、1次避難場所の寒さ、トイレ対策などの課題も浮き彫りとなった。

 緊急アンケートは鶴岡、酒田、遊佐の各市町の沿岸部20自治会・振興会長や事務局長らに直接取材か電話聞き取りで実施した。

 鶴岡で震度6弱を記録した2019年6月の本県沖地震以降、7割の自治会が「備えへの意識が変わった」と答えた。避難した人の所要時間は「5分以内」が7%、「10分以内」が33%、「20分以内」が27%(「不明」「避難者ゼロ」は除く)。県が16年にまとめた津波浸水想定は、本県への第1波到達が最短で1分未満、遅くても11分と見込む。今回、5分以内も含め10分以内に避難できたのは4割。鶴岡、酒田は震度4で切迫感がなかったとの声もあり、一概には言えないが、津波到達までに避難が間に合わない恐れがある。

■行動二極化

 地震の混乱や帰省者などで正確な避難割合は不明だが、鶴岡では「半数」か「4割」の回答が多かった。「本県沖地震では7割が避難した。今回は震源が遠く揺れが弱かったためか、『大丈夫』と判断した人も少なくなかった」(三瀬地区自治会)。空振りでも逃げる意識が強まったとする自治会もあったが、危機感の二極化がうかがえた。

 帰宅を巡る苦悩も明らかになった。津波警報は1日午後4時22分に出され、2日午前1時15分に注意報に切り替わった。すべての解除は同10時だが、多くが解除前に自主判断での帰宅を容認した。ある自治会は「警報中に帰宅を認める判断は難しい」と吐露。別の自治会は「自主防災組織としては『困る』と諭したが、寒さと空腹で帰った人が多かった」とした。

 ペットを置いて逃げた後、心配になって警報中に戻った人もいた。「避難した焼き鳥屋さんが焼き鳥を持ってきてくれた」「おせち料理を持ち寄った」などのエピソードもあった。

■寒さの訴え

 「まず逃げる場所」として指定されている1次避難場所は多くが屋外で、「寒さを訴える人が多かった」(宮野浦学区コミュニティ振興会)。2次避難所は暖房を含め「問題なかった」との回答が大半だったが、1次避難場所は水、食料、トイレ、寒さ対策などで問題があった。「訓練は天気のいい日に短時間しかやらない。早朝や夜中に実施することも検討したい」(加茂地区自治振興会)との声もあった。

避難者数の集計は困難

 今回の地震で、鶴岡市は3923世帯9204人、酒田市は1万2336世帯2万6966人、遊佐町は244世帯572人に避難指示を出した。各市町が把握した避難者は、鶴岡市が2640人で28.6%、酒田市が2224人で8.2%、遊佐町は435人で76.0%となった。

 避難者数は正確さの面で課題を抱えている。酒田市は地域単位での実避難者数の集計について「重複が生じる」などの理由で困難としており、3市町ともに「実際はもっと多い可能性がある」とする。緊急時の人手確保や、1次・2次避難場所が計10カ所以上となる地区があるなど、行政側が全てを網羅することは難しいという。

 鶴岡市は、旧市内は各コミュニティセンターを、温海地域は集落と自治会、市温海庁舎を通じ、災害対策本部に情報を集約した。開設した指定避難所に市職員を配置し、LINE(ライン)を使って避難者数を報告する仕組みを採用。ハザードマップ上のその他の1次・2次避難の場所は自治会などから聞き取るなどした。実避難者数の把握は避難所の検証や再考、きめ細やかな避難者支援につながる。鶴岡市の秋葉敏郎危機管理監は防災対策面で「重要な指標になり得る」との認識を示す。

密集する活断層、十分な対策必要

 日本海東縁では多くの海底活断層が確認されており、本県沖も密集している。東北大の今村文彦教授(津波工学)は、日本海側の津波について(1)震源が近く避難の時間的余裕がない(2)繰り返し襲ってくる(3)冬場の発生では降雪などで避難自体が困難を伴う―の3点を指摘する。

 県は、本県沖の断層が動いた場合、冬の深夜発生では最大死者5250人と想定、夏の昼発生に比べ2千人増えると試算している。山形大講師の熊谷誠氏(地域防災学)は「県沖で10メートル級の津波が押し寄せると、数日間は1次避難場所から移動できなくなる可能性がある。最悪の事態を想定し、それぞれの気付きを伸ばしてほしい」と話す。

© 株式会社山形新聞社