学生たちの腹満たし40年以上 居酒屋「八十八夜」(青森・弘前市)閉店 店主・飯村さん、78歳で他界

調理場で魚を焼く八十八夜の店主千代春さん。昨年12月に常連客が撮影した(清子さん提供)
片付け作業の進む八十八夜の店内。店を手伝ってきた長男の寿晴さん(左)と妻の清子さん

 青森県弘前市の学生街・西弘地区の居酒屋「八十八夜」で店主をしていた飯村千代春さんが14日、亡くなった。享年78。40年以上もの間、良心的な値段の酒とおいしいご飯で大学生たちの腹を満たし「はっぱち」と呼ばれて愛されてきたが、家族は店を畳むことに決めた。妻の清子さん(74)は「皆さんには感謝しかない」と語った。

 板柳町出身の千代春さんは10代で東京へ出ると、料亭や結婚式場で板前として修業。20代後半から弘前市内の郷土料理店で働き始め、まだ西弘地区に店が少なかった1980年8月に八十八夜を開いた。

 ハマチのカマ焼き、揚げ出し豆腐、だし巻き卵のほか500円台で食べられる定食も人気メニューだった。「安いからと手抜きや妥協はしない人だった」と清子さんが語るように、食材選びや調理には人一倍の気を使っていたという。

 店は弘前大学と弘前学院大学のどちらからも徒歩5分圏内にある。サークル仲間や友人同士が集い、卒業生たちの同窓会会場としても人気だった。

 昨年12月中旬、千代春さんは体調を崩して入院。がんが見つかった。投薬の影響で意識がはっきりしない時間も増えたが、そういう時は決まって見舞いに来た清子さんに「体を起こしてくれ。焼き鳥を焼く」「予約が入ってる。皿を並べておいてくれ」と営業中と変わらぬ指示を出した。「本当に店が好きだったんだと思う」と清子さん。千代春さんは復帰を信じ続けていたという。

 千代春さんが入院してから店は休業し、昨年12月17日が最後の営業となった。清子さんら家族が店の片付けをしていた今月24日、常連客たちが店に訪れ「最後に顔を見たかったな」「本当に感謝してます」とあいさつした。清子さんは「ここまでやってこられたのは、アルバイトしてくれた学生さんやお客さんたちのおかげ。これもやっぱり主人の人柄なのかな」と話した。

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