津軽の郷土料理「けの汁」 この冬食べた? 弘前中心に調査/若年層で低い傾向

ニンジン、ゴボウ、フキなど約10種類の具材を盛り込み作った津軽地方の郷土料理「けの汁」
津軽地方の郷土料理「けの汁」を手にする城西小学校の児童たち

 津軽地方の代表的な郷土料理「けの汁」。食べる風習が年々薄れてきているとの声がある中、東奥日報社弘前支社の記者が青森県弘前市内を中心に、取材で出会った20~80代の男女約20人にけの汁をこの冬に食べたか聞いたところ、結果は半々に割れた。実態を知るためにはより多くのデータ収集が必要だが、若い世代で食べない人が多い傾向がありそうだ。

 25日、弘前市新町の城西小学校。6年生が校内の家庭科室に集まり、けの汁作りに挑戦した。主催は地域の大人たちでつくる城西学区ふれあい講座運営委員会。地域の伝統を子どもたちに伝えようと10年前に始めた。

 子どもたちはピーラーや包丁を手に真剣な表情。ダイコン、ニンジン、ゴボウ、油揚げ、高野豆腐、こんにゃく、ワラビ、ゼンマイ、フキ、大豆をすりつぶした「ずんだ」など約10種類の具材を細かく刻んだ。最後にみそを入れて出来上がり。

 参加した児童32人に、年が明けてから家でけの汁を食べたか聞いてみた。手を挙げたのは8人。ちょうど4分の1だった。

 「具材の味が好きじゃない」「細かく切るのが大変で、作るのに手間がかかる」と子どもたち。一方で武田真白(ましろ)君(12)は「具がたくさんあって味も好き」、牛山かえなさん(11)は「今年の正月は食べていないけど、正月かどうかに関係なく家で食べている」と話した。実食では、何度もお代わりする子どもの姿もあった。

 農林水産省のホームページによると、けの汁は「小正月に一年の無病息災を願っていただく精進料理」。歴史的には、家庭の女性たちが小正月にくつろぐために作り置きする保存食でもある-と紹介している。

 “実食率”はどうか。記者の聞き取りに応じてくれた人のうち、20~30代の8人の中で「食べた」という人はわずか2人にとどまった。こちらも4分の1。「学校給食で食べたことがある程度で、家で出たことはない」とは弘前市の吉田甲世さん(28)。同市の花田瑞希さん(30)は「食べたくなったら母親と作る。正月だから食べるということは今までなかった」と話した。

 40代以上になると、食べたという人が一気に多くなる。弘前市の今深雪さん(72)は「小正月に作るし、年に2、3回食べたい時に作る。一品作るだけでおかずになる」。同市の喜多島生子さん(46)は「5、6年前から餅を入れて食べるようになった」と工夫を凝らしている。

 同市の齋藤日出夫さん(83)は「古里の旧平賀町では小正月の初日から食べた。1週間ほど毎日食べるが、飽きてくる。他のおかずを食べたくてしょうがなかった」と懐かしそうに笑った。

 同市の木村正人さん(58)は「12月に母親が野菜を細かく刻む作業を始めると、年末や正月が近づいてきたなと感じていた」と語る。津軽に住む人にとって、けの汁は、いとおしい記憶を伴った料理という一面もあるようだ。

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