映画「バカ塗りの娘」さながら 父に師事 津軽塗の道/蒔苗さん(青森・弘前市)

父の木村さん(右)と塗りの作業をする蒔苗さん=24日午前11時45分ごろ、弘前市城西

 青森県弘前市の蒔苗依里朱(えりす)さん(29)が津軽塗職人を目指し、父で職人の木村邦仙(ほうせん)さん(61)に師事している。その姿はまるで、津軽塗をテーマに昨秋公開された映画「バカ塗りの娘」のヒロインのよう。実家の工房で師匠と肩を並べ、技術習得に取り組む蒔苗さんは「若い世代に親しんでもらえる津軽塗を作っていきたい」と意欲を見せる。

 24日、2人は同市城西にある木村さんの作業場で黙々とブローチの木地に漆を塗り、やすりをかけていた。「どうしても研ぎすぎてしまう」と蒔苗さん。その手元に木村さんは時折目を向けるが、声はかけない。蒔苗さんも直接師匠に聞くことはせず、技を見て学んでいるようだった。

 蒔苗さんは幼少から、木村さんが津軽塗に励む姿を見て育った。食卓など身の回りに津軽塗があふれていることを、特別なこととは思わなかった。

 転機が訪れたのは3年ほど前。地元のアイドルグループ「りんご娘」が身に着けている津軽塗のアクセサリーを、木村さんが提供していることを知った。「(当時)メンバーの王林さんなどテレビで見る人たちが身に着けているのがすごい」と思った。専業主婦だった昨年1月、「津軽塗を教えてほしい」と木村さんに頼み込んだ。

 「すぐに飽きるだろう」という木村さんの予想とは裏腹に、蒔苗さんは津軽塗に打ち込んだ。キラキラと光るラメ材を漆に混ぜてつやを出す技法を用いて、髪飾りなどのアクセサリーや箸などを作ると、女性を中心に幅広い年齢層から問い合わせが来た。

 「バカ塗りの娘」は蒔苗さんも鑑賞した。「主人公が父に『津軽塗をやりたい』と言う時の気恥ずかしさに共感した」と自身の経験を重ね合わせた。1年間、木村さんの津軽塗制作を横で見てきて「作業が細かく、単純に(技術が)すごい」。横にいる父には視線を向けず、照れくさそうに話した。

 木村さんは、その言葉に笑みを浮かべながら「経験を積んで、自分の塗りを確立してくれれば」とエールを送った。

© 株式会社東奥日報社