「うちだけ申し訳ない」 断水解消の住民、復旧しない隣人気遣う

断水が解消し、入浴のため風呂を洗う葭谷内さん=輪島市門前町別所

  ●門前の山あい集落訪ね

 能登半島地震による断水が続く輪島市内で、水道の本管が復旧した地区があると聞き、同市門前町の山あいの集落を訪ねた。入浴も洗濯も不自由なくできるようになり、手放しで喜んでいるのかと思いきや、住民の一人は「うちだけ申し訳ないわ」と、どこか浮かない様子。同じ集落でまだ水が出ない家があるためという。未曾有の震災に遭ってもなお、隣人を気遣う能登の人々の優しさを改めて感じた。(佐内まこと)

 被害が甚大な輪島市内では発生から4週間が過ぎても、ほぼ全域で断水が続いているが、門前町定広や長井坂、東大町、原、百成など、浄水場に近い60戸で20日頃から順次、断水が解消された。

 同町別所の葭谷内(よしがやち)和子さん(77)方でも、同日午後3時ごろに通水が再開した。80代の夫と暮らす葭谷内さんは「水くみが1日の仕事だった」とため息交じりに発災後の苦労を振り返った。生活水を確保する毎日の作業は、かなり体にこたえたようで、「4週間ぶりに水が流れるようになって、本当に助かった」と、安どの表情を浮かべた。

 別所には5世帯が暮らしているが、現状で水道が使えるようになったのは葭谷内さんの家だけだという。破断した水道管の本管は修理されたが、道路から各家庭に引き込む水道管などが敷地内で漏水していると水は出ない。葭谷内さんは「まだ隣近所に水が使えない人がたくさんいるのに、喜んどれんわいね」と苦笑する。

 このため、葭谷内さんは水が使えず避難生活を続けている集落の住民に、自宅の洗濯機を利用してもらうことにした。入浴も一緒に勧めているが、他の住民はそろって「人の家のお風呂に入るのは申し訳ない」と遠慮がちらしい。

 近くの上本郷集会所に身を寄せている別所の60代女性は「漏水の修理を依頼せんとあかんけど、山水で生活できとるし、もっと大変な人たちがおる。うちは後回しでいいわ」と話した。長期間の不便さを強いられながら自分のことは後にする。能登の人たちは、どこまでも謙虚だった。

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