社説:虐殺防止命令 ガザの休戦実現へ力尽くせ

 イスラエルにパレスチナ住民の殺りくをやめさせ、休戦実現へ動かねばならない。

 オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)がパレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、イスラエルに対し民族大虐殺(ジェノサイド)を防ぐ「あらゆる手段」や人道支援の確保などを行うよう命じた。

 ICJの命令は国連加盟国に法的拘束力がある。イスラエルは順守しなければならない。各国も一致して命令に従うようイスラエルに迫る必要がある。

 ICJには、南アフリカが昨年12月、イスラエル軍の軍事作戦はパレスチナ住民の集団大量殺害にあたり、ジェノサイド条約に違反しているとして提訴し、軍事作戦の即時停止も求めていた。

 ガザ地区での死者はすでに2万6千人を超え、200万人近くが家を失った。イスラエルは戦闘を続け、病院や社会インフラなどの破壊も続けている。こうした状況を踏まえ、ICJは数年かかるとされるジェノサイドかどうかの判断とは別に仮処分(暫定措置)として命令を出した。それだけ緊急性が高いということだ。

 即時停戦が盛り込まれなかったことから、イスラエルのネタニヤフ首相は「自衛権を剥奪する試みは拒絶された」と強調しているが、筋違いも甚だしい。

 南アはガザの封鎖やパレスチナ人に対する抑圧的な政策を、かつて自国で続けられた人種隔離政策に共通すると批判している。イスラエルは南アの指摘を重く受け止めるべきだ。

 ロシアによるウクライナ侵略では、ICJが2022年3月に軍事行動の停止を求める暫定命令を出し、個人の戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)が23年3月、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を出した。

 国家や権力者による非人道的な行為を許さないという発信を、国際司法機関が迅速に行うことはきわめて重要だ。

 ただ、ICJには法執行機関がなく、イスラエルを命令に従わせる強制力はない。それだけに、問われるのはイスラエルに影響力を持ち、巨額の軍事支援を続けている米国の姿勢だ。

 米国は欧州連合(EU)とともに命令におおむね賛意を表明している。即刻支援を停止し、休戦を主導すべきだ。

 米国とイスラエル、エジプト、カタールなどの情報機関トップがフランスでハマスに拘束された人質の解放や休戦案について協議を始めた。長期的な休戦実現に手を尽くしてもらいたい。

 一方、国連難民救済事業機関(UNRWA)の職員がハマスの奇襲に関与した疑惑が浮上し、日本や米英など11カ国が資金供出の停止を発表した。UNRWAは人道支援の核を担っている。疑惑は見過ごせないが、人道危機を救う支援を途切れさせることは、あってはならない。

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