焦げた臭い、今も漂う 津波火災の珠洲・宝立

火災の現場を調べる消防隊員=30日午前8時半、珠洲市宝立町鵜飼

  ●漂着がれき大量、恐怖の痕跡 住民「逃げられんと覚悟した」

 もう1カ月が過ぎようとしているのに、焼け焦げた臭いが鼻をついた。30日、能登半島地震で火災が発生した珠洲市宝立(ほうりゅう)町では、焼け跡の一角にがれきが積み重なっていた。津波の漂着物から家屋に燃え広がった「津波火災」の跡だろう。耳に届く波音は穏やかだが、目の前には黒焦げた車や家具が無残に散らばっていた。(社会部・巻山彬夫)

 海沿いを走る国道249号から脇道に入ると、宝立町春日野・鵜飼(うかい)の火災現場がある。足を踏み入れると、津波で押し流された建物の木材や家財道具が山のようにあり、焼け焦げていた。プロパンガスとみられるボンベが転がり、丸焦げの自動車も4台あった。

  ●空き地や通路埋める

 地震前の写真と見比べると、海近くに建つ納屋は跡形もなく流されていた。こうしたがれきが、住宅と住宅の間の空き地や通路も埋め尽くしている。

 先日訪れた輪島市の朝市通り周辺の大規模火災や、これまで取材で見た火災の現場とは異なる状況だ。金属製のフェンスは斜めに傾き、焦げた建材の山には漁業用の網が絡まっている。普通の火災にない津波の痕跡も目につく。

 「火がどんどん迫ってきて、逃げられんと覚悟した」。近くに住む60代男性は火の手に迫られた恐怖を振り返った。男性は当時、98歳の父親を連れて避難所に行くのは難しいと考え、津波を避けようと自宅2階に逃げていた。

 火事に気が付いて避難をしようとしたが「道はがれきが壁みたいになっていて、脱出できなかった」。消防車が来ているのか、消火が進んでいるのか、気が気でなかった。

 当時、断水のため消火栓は力を発揮しなかった。倒壊した家屋や電柱が道路をふさぎ、消防隊は近づけず、消火に時間を要した。

 男性と父親は1日深夜、家族らの助けを借りて、崩れた屋根伝いに自宅から脱出した。「もし風があったら一帯に燃え広がっていたかもしれん。地震のときの火事はどうにもならん」。男性の言葉に海沿いの住宅密集地を襲った災禍の無情さを覚えた。

 

  ●全焼4棟、部分焼2棟 珠洲署、消防実況見分

 珠洲署と珠洲消防署は30日、実況見分を行い、住宅被害は全焼4棟、部分焼2棟、焼失面積は約2500平方メートルと判明した。火元や出火原因は特定できていない。火災は1日午後6時半ごろ発生し、14時間後に鎮火した。死者はいなかった。

 

  ●ボンベや車から発火か 京大防災研究所・西野智研准教授

 京大防災研究所の西野智研(ともあき)准教授(建築火災安全工学)は、津波で建築物や車が押し流されて浸水の浅い場所に集積した後、何らかの要因で出火し、流失しなかった家屋に燃え移った可能性があると指摘した。

 一般的な火事は家屋の隙間や道路が延焼防止に役立つ。しかし津波火災は、がれきがこうした「空地」を埋めて火が広がるため、火災が大規模化するという。

 津波火災はプロパンガスボンベや車のガソリンなどが発火原因と考えられている。西野准教授は「津波の浸水域は火災リスクがあると認識してほしい。避難場所の防火対策の充実も必要だ」と話した。

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