社説:損保ジャパン 企業文化、刷新できるか

 「顧客の利益よりも自社の利益を優先する企業文化が原因」という指摘は重い。

 自動車保険金の不正請求を繰り返した中古車販売大手ビッグモーター(BM)との不適切な取引を巡り、金融庁は損害保険ジャパンだけでなく、親会社のSOMPOホールディングスにも保険業法に基づく業務改善命令を出した。

 グループ全体のガバナンス(企業統治)の機能不全を指弾し、経営責任を問うた形だ。

 これを受け、SOMPOの桜田謙悟会長兼グループ最高経営責任者(CEO)は3月末で全役職を退く。損保ジャパンの白川儀一社長も本日付で引責辞任する。

 桜田氏は強い指導力と経営手腕で10年超にわたってSOMPOグループを率い、日本損害保険協会会長や経済同友会代表幹事を務め、損保業界や財界で存在感を放った。かねて企業の不祥事にも苦言を呈してきたが、自らが監督責任を問われ、表舞台からの退場を強いられた。辞任は当然だ。

 だが、企業体質の根本的な刷新が求められており、経営トップの辞任だけで済む問題ではない。

 BMでは事故車両を修理時に従業員が故意に傷つけるなどして、保険金の水増し請求が横行していたとされる。内部告発で不正が発覚し、競業他社が修理のあっせんを停止する中、一昨年7月、特に関係が親密だった損保ジャパンだけが取引を再開していた。

 金融庁は改善命令で、SOMPO特有の企業文化が根底にあると断じた。両社に経営責任の明確化とコンプライアンス(法令順守)の徹底を命じ、3月15日までに改善計画書の提出を求めた。

 歴代社長を含む経営陣の下で、こうした企業文化が醸成されたとし、都合の悪い情報を経営陣らに適切に報告しない体質なども問題視。SOMPOも子会社に対する経営管理が十分に機能していなかったと言及した。ただ、より重い業務停止命令に踏み込まなかったのが妥当なのか、疑問が残る。

 SOMPOの社外調査委員会も、経営理念に掲げる「お客さま視点」はうわべだけだと指摘した。長年醸成された企業体質の変革は容易でない。SOMPOの社長が次期CEOに就任予定だが、社外登用など人事刷新も含め実効的な対策を打ち出せるかが試されよう。

 企業保険のカルテル疑惑など損保業界の不祥事は繰り返され、信頼回復への道のりは険しい。いま一度、法令順守と顧客重視の重要性を肝に銘じてもらいたい。

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