苦戦したアジアカップで冨安健洋が指摘した「熱量」の問題、日常にある選手と指導側の解離【日本代表コラム】

優勝候補に挙げられながらベスト8で敗退した日本代表[写真:Getty Images]

「良くない時の日本がそのまま出たなと思いますし、そこはなんというか、僕が代表に入ってからという意味では、成長できていない部分なんだろうなと思います」

イラン代表相手に2-1で敗戦を喫した日本代表。アジアカップ2023で優勝を目指した中、ベスト8での失意の敗退となった中、試合後の取材でDF冨安健洋(アーセナル)が語った言葉だ。

FIFAランキングはアジアで1位。カタール・ワールドカップ(W杯)では優勝経験のあるドイツ代表、スペイン代表に勝利し世界を驚かせ、2023年は3月の2試合こそ勝利がなかったが、その後は連勝を続けてきた。「史上最強」とも言われたチームだったが、連勝した中での公式戦は2026年の北中米W杯予選の2試合のみ。いずれも親善試合だった。

それでも優勝候補筆頭として各国から注目され、それと同時に今まで以上の警戒と対策をされた中で臨んだアジアカップでは苦戦の連続。準々決勝までの5試合で理想の展開になった試合は1つもなかったと言える。

アジアサッカーのレベルが向上したことも1つ。また、日本に対して完璧に準備をする相手との対戦がいかに難しいかも思い知ったはずだ。ベトナム、イラク、インドネシア、バーレーン。この4カ国は日本をリスペクトし、日本対策をしての戦いという傾向が強かった。ただ、イラン戦はそれとは違うものだった。

イランもアジアカップで3度の優勝を誇り、FIFAランキングでは日本位次ぐアジア2位。優勝候補の一角でもあり、日本対策ではなく自分たちの戦いを貫き通してきた。それが日本が得意としないロングボール主体のパワープレー。ただ、それを十分に頭に入れた中で戦った日本だったが、後半は完全に相手にペースを握られ、最後に散ることとなった。

冒頭の冨安のコメントは、その後半戦を主に指している。「熱量」という言葉を使い、冨安はチームへの想いを語った。

「悪い時の日本が出て、それを変えようとする選手が何人いるかということで熱量の足りなさをピッチ上で感じました」

「勝ちに執着するべき時にできないというのは、それが日常なのかが分からないですけど、勝ちへの執着心が足りなかったです」

明らかに悪い流れになり、イランのやりたいこともハッキリとしていた中、日本は修正できずに試合を終えてしまった。前半はペースを握れていたが、後半相手にペースを握られると盛り返せない。これはイラン戦に始まったことではなく、イラク戦でも同様の展開でそのまま敗れた。

冨安の言う「良くない時の日本」とは、その流れを変えるアクションを起こす選手が少ないこと。「後半のような難しい展開の時に、黙ってやるというか、ただ淡々とやるのではなく、何かを変えようとする選手がいたり、今耐えるぞと声をかける選手がもっといないと勝てないよなと思います」と語った。

これは大きな話で言えば国民性とも言える。「大人しい選手が多い」と森保ジャパン発足時にはベテラン勢が口にしていたこともあった。互いに要求する声、チームを鼓舞する声が少なく、チームの戦い方、自身のタスクは遂行するものの、チームとして機能させるためにアクションを起こす選手は多くなかった。

冨安が指摘したのも同様のことだろう。そしてこれは、堂安律(フライブルク)も言及。「押し込まれているというのは見ている人もやられそうと思っている中で、中の選手からも声をかけきれなかったことは感じていました」と声は少なかったという。

今の日本代表はヨーロッパの5大リーグでプレーする選手が多く、5大リーグ以外でプレーする選手もチャンピオンズリーグ(CL)やヨーロッパリーグ(EL)など欧州を舞台にした戦いを日常的にしているクラブに所属している。そこで要求されること、スタンダードになっていることは、遥かに高いレベルだろう。

一方で、日本代表となれば所属チームが違う以上、基準はバラバラになる。チームのレベルの差、立場の差、リーグのレベルの差などあげればキリがないが、それでも高い基準を持てなければ、目標であるW杯優勝は達成できるはずがない。

冨安はこの「熱量」についてアーセナルでの日常に言及。「言わずとも勝手に勝ちへの執着心が備わっているというか、誰も何も言わなくてもそれが当たり前という感じ」と、やはり選手個々の基準が高いことを語った。ただ、そう語る中で口をつぐむ瞬間も。アーセナルにおいて言えば、ミケル・アルテタ監督がその「熱量」を完全にチームに植え付けており、試合中はもちろんのこと、試合前、試合後、トレーニングでも「勝利」に向けてのアプローチを選手にかけている。日本代表においては、ここが不足している可能性が高い。

森保一監督は、2018年からチームを率い、東京オリンピック世代も兼任していたことで、今の日本代表の中心選手である選手たちとは付き合いが長い。そのスタンスは「ボトムアップ」と言って良いだろう。選手たちの声に耳を傾け、そこから意思決定をしていくというスタイルだ。完全にそうというわけではないが、普段の発言からもそれが垣間見える。

一方で、選手たちがプレーするクラブチームでは「トップダウン」の方式がメイン。基本的には監督が掲げるサッカーを選手たちが学び、ピッチ上で体現する。そのサッカーに必要な選手を補強することも含まれるが、指導者側が最も強い「熱量」を持っており、選手補強に関して決定権を持つ監督も中にはいる。それほど自身のフットボールスタイルで「勝つ」という強い信念を持っており、そこでプレーする選手たちには日常的に「勝利への熱量」が備わってくるのだろう。

これを同じ代表チームで持たせることは簡単ではない。ただ、今大会で感じた日本が後手に回ったパターンはいずれも同じ。中東勢が持つあくなき勝利への「熱量」に押し込まれ、監督がチームに植え付けた「スタイル」を出し切られて負けている。

日本代表も当然のことながら、スタイルや戦術、戦略は持っている。攻撃のパターン、形もいくつかは持っている。ただ、最後まで信じ抜いて出し続けられるものがあるかと言われると挙げ難い。「熱量」がないわけではないが、相手の「熱量」を越えなければ負けるのは当然。チームとしてその「熱量」を持たせることができているのか。森保監督含めたスタッフ陣のスタンスも変化が必要になると言えそうだ。

森保監督はイラン戦後に「私自身ももっともっと選手たちの熱量を上げていくための働きかけをして、選手たちに任せるのではなく、環境作りを含めてやっていかなければいけないと思います」と語った。これまでのやり方ではある種の限界が見えたアジアカップ。掲げている目標に向かって成長していくためにも、変化が必要だと痛感させられたのかもしれない。

《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》

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