東京直通効果で福井への進出企業が増える? 行政の手厚い補助制度も後押しに

スタッフと打ち合わせするジェイクールの齋藤社長(右)。福井は3カ所目の支店だ=1月5日、福井県福井市種池1丁目の同社福井クリエーティブオフィス

 福井県福井市中心部から車で10分。木造2階建ての社屋は、ホームページの更新代行を手掛けるジェイクール(本社京都府京都市)の「福井クリエーティブオフィス」(福井市種池1丁目)だ。

 「福井の人は車移動でしょ。郊外の方が便利かなと思って」。齋藤巧哉社長(56)=福井市出身=は2020年、全国3カ所目の支店を福井に開設した。

 2階のオフィスでは9人が働く。テーブルが並ぶ1階はミーティングや交流スペース。地域のイベント会場としても貸し出す。2LDKの住居スペースもあり、東京などほかの支店の社員らが訪れて宿泊する。福井に滞在しながら仕事をしたり、余暇を楽しんだりと柔軟な働き方ができる。

 近年、東京のIT企業を中心に地方への移転や拠点開設が進んでいるという。齋藤社長は「物件も比較的安いし、北陸新幹線によって利便性が高まれば福井に進出する企業は増えるだろう」と東京との“直通効果”をにらむ。

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 「人材探しは東京では難しくなってきている。一方、地方にはまだまだ獲得できる余地がある」

 2023年12月にオンラインで開かれた福井県のサテライトオフィス進出セミナー。福井進出の経緯について、士業や医業の開業支援などを手掛けるスタイル・エッジ(本社東京)で取締役CIO(最高情報責任者)を務める長田唯世さん(42)が熱っぽく語った。

 同社は21年12月に福井市の県繊協ビル内にオフィスを開設。進出したのは人材獲得のためだった。長田さんは「東京ではそれなりに知名度がないと人を採れず、採用してもすぐに転職してしまう」と話す。

 福岡県の拠点で採用が順調だったことから、ほかの地域も探していた。妻が福井県出身という縁もあり、福井に決めた。福井オフィスには県内で雇用された5人のシステムエンジニアが勤務する。長田さんは「システムの仕事は地道な仕事が多いが、福井の人は粘り強く取り組んでくれる。定着してくれる安心感もある」と手応えを語る。

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 19年度以降、県外企業による県内でのサテライトオフィス開設は10件。仕事をする場所を選ばないIT企業が多いが、県や市町の手厚い補助制度も進出を後押ししている。県は北陸新幹線敦賀開業を好機と捉え、21年度に制度を拡充。県内にオフィスを開設する県外事業者に対し、U・Iターン者1人以上などの雇用要件を満たせば土地取得や賃借、建物改修、事務用機器の取得・リースなどの費用を補助している。

 1社あたりの補助総額は最大2400万円。県成長産業立地課の岩下美樹課長は「支援メニューは全国でもトップクラス」と胸を張る。22年度の相談件数は1036件と21年度の694件から伸びており、「北陸新幹線によって都市圏の企業にとっても福井が身近な存在になる。進出企業が増えれば、高度人材やU・Iターンする学生の受け皿にもなる」と意気込む。

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 北陸新幹線による移動時間の短縮も企業にとっては魅力だ。スタイル・エッジの長田さんは東京―福井間の行き来について「今までは移動にかかる時間や乗り換えがあって、行きづらい、遠いという思いがあった」と率直な思いを語る。新幹線がつながれば「乗り換えなしで3時間以内で福井に来ることができる。移動のハードルは大きく下がる」と強調する。

 同社では福井、福岡、東京のメンバーを合わせて一つのプロジェクトをすることもある。「リモートで打ち合わせができるが、会って話さないといけないこともある。互いの拠点が行き来しやすくなるのは大きなメリット」と話す。

 長田さんは「福井は製造業が多い一方で、大都市に比べてデジタル化が進んでいない」とも指摘する。福井の企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める存在として、IT企業には商機があると分析する。

⇒「記者のつぶやき】県内企業の活路は」を読む

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 3月16日の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」は第6章に入ります。テーマは「福井が変わる」。地域の特色を生かしたまちづくりや、県外客を意識した取り組みの現状と展望を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

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