「2022年の隠れベスト映画」の呼び声高い傑作『セイント・フランシス』CS放送を見逃すな!ひと夏の“子守りバイト”にアラサー女子が挑む

『セイント・フランシス』©2019 SAINT FRANCES LLC ALL RIGHTS RESERVED

2022年公開の隠れ傑作

2022年、皆さんはどんな映画を観ましたか? 2000年にパンデミックによって大打撃を受けたエンタメ業界が少しずつ回復の兆しを見せ、映画業界の興収も2019年度の8割程度まで盛り返してきたタイミングでした。いわゆる“声出し”はあまり解禁されていませんでしたが、配信サービスの需要も高まり、業界全体が活気づいていました。

国内の映画興収ランキングの上位は『ONE PIECE FILM RED』や『劇場版 呪術廻戦0』、『すずめの戸締まり』といあった人気アニメ映画が独占していましたが、新規も古参も仲良く盛り上げた『トップガン マーヴェリック』が大ヒットを記録し、傑作アメコミ映画の三部作完結編とされた『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の衝撃的な結末は熱狂的なMCUブームを考察モードへ移行させた感もあり、洋画もかなり盛り上がっていました。

そんな2022年にひっそりと公開され、しかし少なくない映画ファンの同年ベスト作品に食い込んだ映画が『セイント・フランシス』。米サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で観客賞と審査員特別賞を受賞し耳の早いファンの間で話題を呼んでいた本作は、現在CS映画専門チャンネル ムービープラスで放送中です。

ひと夏の“子守りバイト”がアラサー女子を変える?

本作の主人公は、太い仕事も家も車も“何もない”日々に憂鬱感を抱えながらレストランの給仕係をしている30代半ばの独身女性ブリジット(ケリー・オサリヴァン)。彼女の親友は、結婚をして今では子どもの話に夢中。かたや大学も1年で中退し、ダラダラとウェイトレスをやっているブリジットは夏のナニー(子守り)の短期仕事を得るのに必死だ。

自分では一生懸命生きているつもりのブリジットだが、ことあるごとに“歳相応の生活ができていない”ことで周囲から向けられる同情的な視線が刺さる。そんなうだつのあがらない日々を過ごす彼女の人生が、子守をすることになった6歳のおてんば少女・フランシス(ラモーナ・エディス・ウィリアムズ)や、その両親であるレズビアンカップルとの出会いによって、少しずつ変化の光が差してきて……。

冴えない人生から光をすくいとるユーモア

ブリジットと同世代で感情移入してしまう、もしくは過去に似たようなモヤモヤを抱えていた人にとってはズシリときそうなテーマではあるが、まずは先入観を持たずに観てほしい。きっと開始十数秒で本作が持つ“軽やかさ”に救われたような気分になり、“なんとなく”の鑑賞が秒で“前のめり”に変わるはず。さらに全編に散りばめられた細かい“チョイ笑い”ポイントが、「なんか意識高め?」みたいな先入観も取り払ってくれる。

それはオサリヴァンが、本年度アカデミー賞ほかあらゆる映画賞を席巻している『バービー』のグレタ・ガーウィグ監督の出世作、『レディ・バード』(2017年)に触発されて脚本を書き始めたという事実と無関係ではないだろう。『ハンナだけど、生きていく!』(2007年)や『フランシス・ハ』(2012年)の頃からガーウィグのド日常ユーモアは、たくさんの人の沈殿したモヤモヤから僅かな光をすくいとってきたのだ。

オサリヴァンが自身の経験もまじえて書いたという脚本には、「TPOをわきまえて」とか「カジュアルすぎる」と感じる人もいるかもしれない。でもシーン毎の“背景”を文字通りちゃんと見ておけばオサリヴァンの“意図”に気づけるようになっているし、それらが観客の違和感に対する回答にもなっている。

私たちの毎日はとにかくキツくてクソみたいなことばかりで泣きたくなるし大声で悪態をつきたくもなるけれど、もし客観的に見られたら、きっと喜劇みたいに滑稽なんだろう。それでも本作のラストシーンのように、カラリと笑えてしんみり泣ける瞬間があれば、なんとか生きていけるかもしれない……なんて思わせてくれる、生涯の大事な1本になりうる映画だ。

『セイント・フランシス』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年2月放送

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