全世界3億ドルの超ヒット“ゲーム発”ホラー映画を濃厚解説!『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』の見どころAtoZ

『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』© 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.

「ピコピコの映画」も今は昔…

かつての“ゲーム映画”はあまりゲームというものを分かっておらず、プレイしたこともない人々によって作られていた――そんな試行錯誤の歴史であった、というあたりは『スーパーマリオ/魔界帝国の女神』(1993年)や『ストリートファイター』(1994年)などの例をみても明らかである。

そこから時は流れ、今では大人も子供も皆ゲームをプレイするようになった。そんな時代になると、みな元ネタのゲームをプレイしているのが当たり前で、それどころかマニア自身がスタッフとなり映画版を作っている、なんていう作品も多くなってきた。『ソニック・ザ・ムービー』(2020年)なとがいい例だろう。

そして、2024年2月9日(金)に日本公開される『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』(以下『FNaF』)は、その「ゲームの世界を再現する」手法はもちろん、さらに映画ならではの表現を加え、映画版を観る意味のある作品になっている。

大ヒットPCゲームシリーズ『FNaF』とは?

ゲーム版『FNaF』は、廃墟と化したダイナー&アトラクションを舞台に、打ち捨てられた巨大アニマトロニクスの人形たちが襲いかかってくる。主人公の監視員は、それを防犯カメラなどで察知し、撃退し生き残っていくというサバイバルホラーであり、外伝なども含めると10作を数え、小説やコミックなども展開している大ヒットゲームシリーズだ。

今回映画化される1作目、敵が11体に増えヌイグルミを被ることで仲間のふりが可能になる2作目、舞台をホラーアトラクションに変えた3作目などシリーズ初期作では、カメラや警備システムを用いて人形たちの接近を察知し撃退していく、という基本システムが確立されていった。

その後さらに発展を続け、4作目では守るだけでなく自らも動けるようになり、5作目ではアニマトロニクスたちのメンテ係になり、6作目ではピザ屋の経営側をプレイすることに。さらに7作目では、今までの57体のアニマトロニクスが総登場するオールスター作品となっている(なんとここまで全てPCゲーム)。8作目でVR化し、9作目ではテーマパークを舞台にオープンワールド化。アニマトロニクスを仲間にできたりと、シリーズを追うごとに新たな要素や展開を加え、進化を続けている。

驚きなのは家庭用ゲームとして発売されるのは8作目からということで、シリーズの大半がPCゲームであるのに、これだけのヒットを記録しているのは実に画期的だ。

『FNaF』は「可愛いものが怖く変化して襲ってくる」という流れを作った1本として位置づけられるだろうし、のちの蜘蛛のような足を生やした“機関車トー○ス”風の異形クリーチャーが襲ってくる「Choo-Choo Charles」など、最近のブームである「グロ怖カワイイ」ゲームの祖になっている作品であるともいえよう。

<ブラムハウス>初のゲーム映画の“コダワリ”とは?

映画版『FNaF』は、『パラノーマル・アクティビティ』(2007年)や『M3GAN/ミーガン』(2022年)など、ホラー作品で名を馳せる<ブラムハウス・プロダクション>の、初のゲーム映画化作品だ。

実は映画化の企画はゲームリリースの翌年、2015年から動いていたが、なかなか実現しなかった。映画会社もワーナーからブラムハウスに移り、監督候補も当初はクリス・コロンバス(『ホーム・アローン』『ハリー・ポッター』シリーズほか)が予定されていたが、最終的にこれが長編3作目となるエマ・タミ監督が務めることになった。その間に、本家をヒントに先に作られた作品も登場。それはニコラス・ケイジ主演の『ウィリーズ・ワンダーランド』(2020年)で、設定等が似ているのもなるほど、なのである。

当然ながらゲーム版は、襲ってくるのはフルCGのキャラクターだ。これを映画にするのなら、CGでそのままコンバートするのが普通であろう。しかしこの映画版では、着ぐるみモンスターたちはCGではなく、機械で動かすアニマトロニクスと着ぐるみの併用、というアナログな技術で再現されている。

つまりブルーバックの合成などではなく現場にも実際にキャラが存在し、演者も観客もよりリアルに見ることができる。アニマトロニクスを担当しているのは、TV番組『セサミストリート』や『マペット・ショー』などのジム・ヘンソン・プロダクションだ。

着ぐるみは中の人=スタントマンの動きとは別に、独立して体の細かな動きや表情などをアニマトロニクスでコントロールしており、キャラによっては6人がかりで操っているものもある。製作にはゲーム制作者のスコット・カーソンが最初期から関わり、ブラムハウスのジェイソン・ブラムも『FNaF』の大ファンだったため、元のゲームに強く思い入れのある出来になっている。

もちろん、ゲーム的要素の再現も手を抜いていない。警備員が襲われる冒頭シーンで鳴り響く音は、ゲーム内でプレイヤーの近くに人形たちが近づいてきた時の警告音だし、多くのアイテム、セット、シーン、カメラアングルなどは、初期ゲーム作品を完全再現している。それ以外にもカフェやリビングなど、何気ないシーンでも『FNaF』世界の間取りなどが完コピされている。さんざん訪れたゲーム世界のあの部屋が実写で再現されている、これには驚かされた。

実況チューバーほかゲーム映画ならではのカメオにも注目!

また映画にはつきもののカメオ出演もゲーム内有名人が登場するが、本作の場合は制作者ではなく『FNaF』関係のプレイ実況などで有名なユーチューバーが多数出演しているのが、時代を感じさせるところ。

例えばタクシー運転手役のCoryxKenshinは『FNaF』の有名プレイヤーだし、ウェイター役のMatPatも『FNaF』の考察~攻略動画を上げている人物で、ジェイソン・ブラムが攻略のヒントによく見ていた、というのが起用の理由である。確かに、この手の配信主はプレイ中の自身の姿やリアクションも映しているので顔は知られているだろう。おまけに、エンドクレジットでかかるのはバンド<The Living Tombstone>が手がける、『FNaF』に捧げたファンメイド・ソング。作り手だけでなく、ユーザー~プレイヤーたちの『FNaF』についての情熱もあちこちに垣間見られる作品なのだ。

ゲーム映画につきまとう疑問として、「ゲームそのままの世界が展開されるなら、ゲームの方が自分で操作できるのだから、わざわざ映画で観る必要はないのではないか?」と思ってしまうものだが、本作においてはアニマトロニクス故のリアルさ、光の当たり具合や暗闇から出てくる恐ろしさは、実写で再現する意味を強く感じさせる。

また、CGに頼りきらない目に見える絵作りも、主人公カールの妹との交流や彼らの過去が描かれるシーンなど、より観客に感情移入させるものになっている。ゲーム映画とはいえ、可能なものはなるべく実写で再現した本作は、まさに“映画で観る意味”のある映画と言えるだろう。

本国公開時(2023年10月27日)の週末オープニング成績は『ハロウィン』(2018年)を超えるブラムハウス史上トップの興収を叩き出し、ゲーム映画としては『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023年)に次ぐ2位につけた本作。この大ヒットを受けて早くも続編製作が決定したようで、現時点ではゲーム版「2」~「3」の続編要素を順に忠実に映画化していきたいとのこと。これからも『FNaF』ワールドは広がりそうで楽しみである。

文:多田遠志

『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』は2024年2月9日(金)より全国公開

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