台湾本島から飛行機で1時間足らずの島、金門島(きんもんとう)。台湾が実効支配する島で、かつては中国との戦いの最前線だった。島のあちこちに今も戦いの跡が残っている。
てき山坑道は、花崗岩の硬い岩盤をくり抜いて作った巨大な地下トンネルで、海とつながっている。無数に飛んでくる砲弾から船を守るための要塞だ。
断崖に立つ四角い構造物は巨大なスピーカー。48個の丸い穴すべてにスピーカーを取り付け、当時、中国大陸に向け大音量で宣伝放送を行っていた。台湾出身の歌手、テレサ・テンさんも放送に協力した記録が残っている。
馬山観測所の坑道の奥には、中国の動きを監視する小部屋もあった。肉眼でも対岸の中国がはっきりと見える。干潮時には1.6キロという近さだ。
中国とにらみ合ってきた金門島。ところが今、衝撃の計画が持ち上がっていた。
金門島と中国を「橋」で結ぶ衝撃プラン
金門大学教授の陳滄江(ちん・そうこう)さんが地図を見せてくれた。
陳教授:
「これは金門島と、中国の厦門(アモイ)をつなぐ橋の建設ルートです。上は道路、下はMRT(鉄道)が走るプランです」
計画では、国際空港の建設工事が進む中国の大嶝島まで、2つのルートが想定されていた。橋の実現は中国も狙っているが、最近は金門島の住民の方が建設に熱心だという。
陳教授:
「島民の95%が橋の建設に賛成しています。なぜなら、両岸の発展の違いを見て下さい。金門島は非常に遅れているのです。これは交通の問題じゃないのか。未来へのニーズは経済発展の道なのです」
経済発展から取り残された防衛の最前線 島民の95%が橋の建設に賛成
金門島の特産品は、高粱(コーリャン)酒に、砲弾の残骸を材料にした包丁だ。頼りは島にやってくる観光客、中でも中国人観光客への期待は大きい。
商店主:「中国人は高粱酒をたくさん買ってくれるからね」
商店主:「もちろん橋の建設に賛成だよ」
陳教授は建設推進団体のリーダー。3年以内に橋の建設の是非を問う住民投票法案を成立させようとしていた。
もう1つルート案が浮上
金門島唯一の国会議員・陳玉珍(ちん・ぎょくちん)さんも橋の建設推進派だ。有望なルートが、もう1つあると明かしてくれた。
陳議員:
「もう1つは、小金門(しょうきんもん)と、厦門をつなぐルートです」
金門島の本島と隣の小島、小金門までは、2022年に開通した「金門大橋」(全長約5.4キロ)ですでにつながっている。車で走ってみると、対岸に中国・厦門の高層ビル群が見えてくる。橋が小金門から厦門まで伸びれば、これも中国とつながることになるのだ。
橋の建設によって中国に支配される心配はないか聞いてみた。
陳議員:
「なぜ支配されるのですか?イギリスとフランスの間にもトンネルがあります。支配なんてされませんよ」
既にライフラインの一部を中国に依存
実はすでに金門島は、ライフラインの一部を中国に依存している。
陳議員:「これは、中国からやってくる水です」
福建省・泉州から海底パイプラインを通じて供給されているという。
陳議員:「水の次はガス、電気、橋なのです」
夜の金門島。海岸線には今も敵の上陸を防ぐ「軌条砦」が並び、錆びた鉄杭の先っぽを対岸に向けている。その方角に広がるのは中国・厦門の高層ビル群。豊かさを誇るかのように、煌々と輝きを放っていた。
橋は平和と繁栄をもたらすのか、それとも中国の野望のかけ橋となるのか。