魅力度38位の福井県だけど「何もない、ことはない」…いま発信すべき福井らしさって何?

福井県外の人たちに福井の魅力を伝える大森さん(左)=2023年12月、福井県福井市順化2丁目の「柳月亭」

 「越前がにの漁場は港から近いので、新鮮なまま店に運ばれて提供されます」。2023年12月、福井県福井市の通称・片町の飲食店。観光関連事業を手がけるamite(アミテ、本社福井市)社長の大森望央さん(36)が“冬の味覚の王様”をPRした。

 旅先に滞在しながら仕事をする「ワーケーション」を推進する福井県事業の一環で、県外から企業経営者ら4人が参加。2泊3日の日程で、東尋坊やあわら温泉の足湯施設「芦湯(あしゆ)」などの観光地を堪能した。片町のビルに支社を構え、東京と福井を行き来するウェブ関連企業代表の都丸哲弘さん(48)は「福井は見るべきもの、食べるべきものが豊富。来るたびに発見がある」と魅力を語った。

 3日間案内役を務めた大森さんは「『福井には何もない』なんてことはない」。新幹線開業を目前に控えた今こそ、県民一人一人が福井の“宣伝隊”として動いてほしいと期待を込める。

  ■  ■  ■

 北陸新幹線敦賀延伸でメディアの露出は間違いなく増えているはずだが、「福井」の知名度はなかなか高まらない。2023年の都道府県魅力度ランキングで、福井県は前年より順位を一つ下げ38位。いかに発信力を高め、首都圏をはじめ沿線地域に“刺さる”PRを展開していくかは延伸後も課題の一つだ。

 現在、観光関連事業を手がける大森さんは、19年から福井県庁の任期付き職員として、県内各地を取材して交流サイト(SNS)などで情報発信する役割を担っていた。21年3月には福井の魅力を首都圏の人に伝えようと、越前がにの殻むき体験の催しを都内で企画。「福井を勝手に宣伝隊」と銘打ち、自費を投じて活動した。

 22年に会社を立ち上げ、県観光連盟のPR活動に関わったり、ガイドとして観光客を案内したりするなど幅広い業務に取り組む。意識するのは「他との差別化を意識した、深みを持たせた魅力発信」。例えば福井の銘菓「羽二重餅」なら、ただ「おいしい」と伝えるのでなく「繊維業が盛んな土地柄と絡めて羽二重織りの柔らかさを舌触りで表している」というように。

 ただ、大森さんの目には「100年に1度の好機」を前にした県内の雰囲気は少し「受け身」「冷めている」ように映る。「ぐいっと前のめりになってみんなが新幹線開業に絡んでいっていいかなって」。自信を持って福井を「外」に伝える人が増えればとの願いだ。能登半島地震で北陸全体の観光が打撃を受け、自粛ムードも広がる中、「北陸は仲間。こういう時こそ協力し互いに相乗効果で盛り上げていきたい」と話す。

  ■  ■  ■

 デザインの視点から「その土地らしさ」を伝える観光ガイド本「dデザイントラベル」の福井号の制作を進めている編集長の神藤秀人さん(43)=東京都=は23年夏、県内に約2カ月住み込み、取材を重ねた。

 高校生が開発して宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙食として認証されたサバ缶や日本トップクラスの産業観光イベントに成長した「RENEW(リニュー)」…。神藤さんの目には「地味で何もないと話す人たちが、世界に通用するレベルのものを多く生み出している」と映った。

 丹南地方の漆器や眼鏡といった伝統産業が高い技術力を背景に「時代の変化に合わせ躊躇なくアップデートする姿勢」は特に感銘を受けた。3月に全国発売されるガイド本を通して福井の魅力を県外の人に伝えたいという。神藤さんは発信力不足をネガティブに捉える必要はないとし「ものづくりの技など、これまで通り福井は福井らしさを貫いてほしい」と助言する。

 福井経済同友会は23年7月、北陸新幹線県内開業に向けたブランド戦略として「福井らしさ」を醸成する取り組みを強化するよう県に提言した。福井らしさを示す「真(ほんもの)」という観点で観光地の価値を高める磨き上げや改善が重要という内容だ。

 福井市の一乗谷朝倉氏遺跡を例に、歴史観にそぐわない展示物、デザインや雰囲気がばらばらな案内板などを挙げて「ほんもの感」を損ねていると指摘。伝統や歴史観に基づいた統一感のある整備や分かりやすいストーリーを通じて、「ほんもの」要素を徹底して磨き上げるべきと強調した。

⇒【記者のつぶやき】「“刺さる”見せ方」を読む

© 株式会社福井新聞社