【韓国】「顧客のDXサポートが鍵」[製造] 韓国富士フイルムBI・鳩貝社長

韓国富士フイルムBIの鳩貝潤社長=2024年1月(NNA撮影)

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む韓国。その進化に伴い、日系企業が強い複合機市場は「紙」から「デジタル」へのシフトにも加速度がついた。就任2年目を迎えた韓国富士フイルムビジネスイノベーション(韓国富士フイルムBI)の鳩貝潤社長は、「顧客のDXをいかにサポートするかが、さらなる成長の鍵になる」と強調する。転換期を迎えている複合機市場の展望と戦略について話を聞いた。

——韓国法人の社長に着任されて1年が過ぎた。中国やベトナムなど海外での経験が豊富ですが、韓国という国の印象はどうか。

韓国は旅行で来たことは何度かありますが、仕事では初めてです。1年間暮らしてみて、実際に来る前に持っていたイメージとは良い意味で大きく異なる点がありましたが、それが非常に印象的でした。

日韓関係に関連することですが、日本と韓国の友好関係や信頼感というのが民間レベルではものすごく強いと感じました。日本の報道では、やはり、どうしても良くない時のことがクローズアップされて報道されてしまいがちです。しかし、韓国に来て実際に韓国の人々に触れてみると、社員や顧客、そして町中で会う人々はみんな親切で、日本語が分かる人は話しかけてくれることもあります。

他国で日本との関係が良くなかった時にあった反日のような感じを受けたことは一切ありません。

——文化や習慣の面で感じた日本と韓国の違いはあるか。

ものすごく感じるのは、目上の人に対するリスペクトです。常にリスペクトしていただけるというのは、日本ではあり得ないですね。私は社長という立場なので、とてもやりやすい部分はあります。

ただその一方で、私が話したことが全て、すっと通ってしまうと感じることがたまにあります。何げない一言が社員に影響を与えてしまう。もちろん、指示通りやってくれることは良い点でもありますが、韓国に来て1年しかたっていない私としては、(言動を)間違えることはできないなと気が引き締まる思いです。

仕事の面では日本と韓国は似ていると聞いていましたが、そういった部分は大きく違うなという印象を持ちました。

——市場というビジネスの視点から見た韓国はどうか。

その印象も大きな違いがありました。韓国の国内総生産(GDP)は日本の約半分くらいですから、普通に考えれば複合機の市場も(日本の)半分ぐらいあっても不思議ではないのですが、日本に比べると非常に少ないんです。

それは韓国のGDPの半分が輸出という点が影響していると思います。日本は中小の製造業がそれこそ数多くありますが、韓国の場合はそこが日本ほど大きくない。ですので、正確な数字ではありませんが、複合機の市場は日本の10分の1くらいの印象です。

ところが、競争は非常に激しいという特徴があります。複合機のビジネスは、当社をはじめとする日系企業が強く、アジアの場合も当社がシェアトップを持っている国は多いです。しかし、韓国ではローカルメーカーのシェアが非常に高いという点が他国とは異なります。これは、ちょっとびっくりしました。

——そのような競争激しい韓国市場での戦略は。

韓国のお客さまはとりわけ、セキュリティーへの要求が高い。北朝鮮問題や国の成り立ちなども関係あるかもしれませんが、ネットワークを通じた攻撃への警戒心が強いと感じます。当社の複合機は米国の認証機関からもセキュリティー認証を取得しているので、その辺りのニーズには対応できると思います。

そして、代理店販売が主流になる中、当社は韓国全土に支店を展開して、ダイレクトにお客さまをサポートする直販体制を維持しています。これは単に複合機を売るだけではなく、お客さまの要望を聞いて製品開発に反映し、直接雇用したエンジニアのメンテナンスを提供するというものです。これが当社の戦略であり、強みでもあります。

——富士フイルムBIが提唱する「CHX」について。

富士フイルムBIは、企業のDX活動を通じてお客さまの成功体験の具現化を目指す「カスタマー・ハッピー・エクスペリエンス(CHX)」を提唱しています。

デジタル化は止めることができない流れです。インターネットや交流サイト(SNS)は生活を一変させてしまいました。パソコンやスマートフォンなしでは1日も社会生活を営むことはできません。韓国ではネイバーやカカオなど優れたITサービスがあり、多くのユーザーはそれらを当たり前のように利用しています。

一方で、社内に目を向けると、どこまでデジタル化が進んでいるのでしょうか。統合基幹業務システム(ERP)や電子メールの利用など一部の業務ではシステム化が進んできていると思います。しかし、われわれはITが当たり前になった時代に合わせ、従来の製品やサービスをアップデートできているでしょうか。これからは、それらDXへの取り組みが企業の競争力を大きく左右します。ただ実際問題として、大部分でデジタルと紙の共存状態にあるのが実情です。

そして今後どのようにデジタル化を進めるべきか悩んでいるお客さまもたくさんいらっしゃいます。そういったお客さまと共にDXによるイノベーションを考え・実践しお客さまの成功体験、すなわち幸せな体験を数多くご提供していきたいと考えています。

——具体的にどのようなサービスを提供しているか。

CHXの一環として、当社は昨年12月と今年1月に2つのサービスの提供を開始しました。

1つは「IT Expert Services」といい、IT資産の可視化や運用、管理、環境改善支援などお客さまのニーズに合わせてワンストップでサポートするツールです。中堅・中小企業でもDXに向けた取り組みが注目される中、IT人材の確保は非常に難しい。例えば、SNSを使ってお客さまとコミュニケーションを取りたいという企業があっても、そのための人材探しやツールの準備はもとより、どのようなコミュニケーションでどのような効果を狙うのかといったコンセプト立案は簡単ではありません。

また、安定した運用までの道のりは決して平たんではありません。一からスタートするには時間とお金がかかります。弊社では一元的にお客さまのIT運用をご提供するのはもちろんですが、それのみならずIT化コンセプト立案など全体をサポートすることも含めて、お客さまがより本業やその先のDXに力を集中する環境をご提供していきます。

もう1つは「FUJIFILM IWpro」。こちらは従来、紙やメールなどでやりとりをしていた社内や社外とのコミュニケーションを、クラウド上のワークスペース上で行う環境を提供し、効率的で効果的なコラボレーションを実現する新しいサービスです。

例えば、見積もりや受発注といった業務はPDFデータをメールしたり、またファクスでやりとりしたりしているお客さまは多くいらっしゃいます。そういった業務であっても、高価なシステムを導入することなく、契約したその日から迅速に、そして簡単で安価に、クラウド上でのワークフローやコラボレーションを実現できますので、まさにDXで悩んでいらっしゃるお客さまが第一歩を踏み出すには最適なツールではないかと考えています。

——2024年の事業戦略は。

韓国に来てから社内で議論を繰り返し、そして多くのお客さまにも訪問させてもらい、韓国市場やお客さまへの理解はだいぶ進みました。新型コロナウイルス禍で大きく変化した働き方によってDXは今後さらに加速するでしょう。

われわれ富士フイルムBIは、ここ韓国においても現在は複合機の会社として認識されています。しかし、さらなる成長に向けて、DXを超えたCHXを実現していく会社にシフトしてしていきたいと考えています。昨年はそれに向けたプロジェクトを練る段階でした。24年からは30年までの中期計画において、それをいよいよ実行に移す段階と考えています。

販売の方法も変えていかなければならないと思っています。先に話したように、当社の強みの1つは直販体制ですが、これからはネットワーク経由でサービスを提供するようにしていく必要があります。われわれもDX化しなければいけないということですね。売り上げの面でもV字回復をしていくために、そして設立から50周年を迎える24年は、弊社にとって非常に重要な年になるでしょう。

(聞き手=清水岳志)

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