的川泰宣・JAXA名誉教授に聞いた。日本の宇宙開発の未来、H3ロケット初号機失敗の影響は? 近く2号機打ち上げへ

H3ロケットの成功に期待を寄せる的川泰宣・JAXA名誉教授=7日、神奈川県大和市

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は近く、国産新型基幹ロケット「H3」を種子島宇宙センター(南種子町)から打ち上げる。2023年3月の初号機失敗から約1年ぶりの再挑戦。的川泰宣・JAXA名誉教授(81)=宇宙システム工学=に意義や期待を聞いた。

 -初号機で何が起きた。

 「JAXAの報告書によれば、2段目のエンジンを制御する電気回路で過大な電流が流れた。機器が異常を検知して電源を遮断、点火しなかった。なぜ、そうなったのかは詳しく触れられていないが、絞り込んだ三つの原因全てにきちんと対策を取ったようだ」

 「エンジンそのものが原因なら、もっと時間がかかっていただろう。不幸中の幸いだ。回路の問題ならば、地上で再現実験やシミュレーションができる。三つの原因のうち二つはH2Aと設計が共通している。対策を反映させて(昨年9月と今年1月に)H2Aを打ち上げられたのは大きい」

 -再挑戦をどう見る。

 「徹底的に検証したということで、特に不安視はしていない。3号機からの本格運用に弾みをつけてほしい。ただ、ロケットの部品は数百万点に上り、一つを変えたら他にも波及する。全てチェックするのは難しく、念入りに準備しても何が起こるかは分からない」

 「考えたくないが、新型基幹ロケットが続けて失敗となれば、日本の宇宙政策は立ち遅れ、宇宙ビジネスや技術競争力にダメージだ。米国主導の国際月探査『アルテミス計画』の参入にも影響する。国際的な日本の立ち位置が揺らぐことが確かで、正念場といえる」

 -H3に期待すること。

 「米中を中心に輸送能力の向上や打ち上げ価格の低減、打ち上げの高頻度化が進んでいる。H2Aに比べて費用を半減し、運搬能力を上げるなどしたH3は輸送の面で日本の宇宙開発を支えるロケットだ。固体燃料ロケットのイプシロンと両輪で活躍してほしい」

 -課題は。

 「米国では地球周回軌道の衛星打ち上げはほとんど民間に託すことができる。航空宇宙局(NASA)で活躍した人たちが民間を支える構図ができている。日本の場合、大型衛星を搭載できるのはH3しかなく、そういう意味で責任が重い。新興企業が出てきつつあるが、もう少し方策を考えるべきだ」

 まとがわ・やすのり 1942年2月生まれ。広島県呉市出身。東京大学工学部航空学科卒。2003年度まで8年間、内之浦宇宙空間観測所所長を務める。はまぎんこども宇宙科学館館長。神奈川県大和市在住。

〈関連〉2段目エンジンが着火せず打ち上げに失敗した「H3」1号機=2023年3月、南種子町の種子島宇宙センター

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