宇都宮の新4号国道死亡事故から1年 悔しさも悲しさも、うまく言葉にできない 支える家族、仲間に感謝も

事故現場近くを訪れた多恵子さん(右端)と献花した井上さん(左端)ら=12日午後、宇都宮市下栗町

 栃木県宇都宮市の新4号国道で2023年2月、オートバイの同市、会社員佐々木一匡(ささきかずただ)さん=当時(63)=が時速160キロ超で走行していたとされる乗用車に追突され死亡した事故は14日、発生から1年を迎えた。突然の別れ、起訴罪名への疑問、署名活動-。妻多恵子(たえこ)さん(59)は想像もしなかった時間を過ごしてきた。悔しさも悲しさも、うまく言葉にできない。「一匡さんが一緒にいるような気持ち」と明かす。法定刑がより重い危険運転致死罪の適用を訴える中、支えてくれる家族や交通遺族への感謝も口にした。

 コーヒーが好きだった一匡さん。多恵子さんは時々、一匡さんが愛用したミルで豆をひき、コーヒーをいれる。「味の違いまでは分からないですが」と懐かしむ。一匡さんが購入したワインは手つかずのままだ。

 多恵子さんは同年6月、ウェブサイトや街頭で署名集めを始め、訴因変更を求めて宇都宮地検に提出してきた。「なぜ危険運転ではないのか」。男が過失致死罪で起訴されたことに疑問を感じたためだ。「たくさんの人たちの支えで活動を続けられた」と話す。

 父を失った20代の次女はX(旧ツイッター)で事故について広く伝えたり、署名活動に協力したりしてきた。次女は最近、被害者参加制度で「裁判参加する」との気持ちを示してくれた。多恵子さんは「一歩踏み出してくれたのがうれしい。本当に心強い」

 一匡さんの叔母の北九州市、無職海雲栄子(かいうんえいこ)さん(77)は、1人で計約3千筆の署名を集めた。「一匡は小さい頃から車が好きだった。優秀で親戚中のお手本だった」と振り返る。「自動車会社で交通死亡事故ゼロを目指していた。二度とこんな事故は起きてほしくない」と涙を拭った。

 同じ苦しみを抱える遺族にも支えられている。多恵子さんは同年7月、各地の交通事故遺族らと「高速暴走・危険運転被害者の会」を設立し、共同代表の一人に就いた。

 同会会員で、1999年11月に東名高速道路での飲酒運転事故で娘2人を亡くした井上保孝(いのうえやすたか)さん(73)と妻の郁美(いくみ)さん(55)は12日、現場周辺を訪れて献花した。現場を見た郁美さんは「法定速度を守っていれば事故は起きなかった」と憤った。

 訴因変更されるかどうか-。多恵子さんは地検の判断を待つ。「(事故への)悔しい思いは増すばかり、うまく言葉にできない」と話した。

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