“かわいい”だけじゃない、野良猫のリアルをとらえて 「飼い主のいない猫」写真展

「野良猫」の写真はどう撮影し、どう捉えるか――。昨今は、そんな声が高まっているように感じる。

東京都府中市にある「Space KURURU ウォールギャラリー」では2024年2月1日(木)〜2月29日(木)までの期間中、動物福祉団体「せぴうるにゃん府中」の代表・渡邉果菜里さんが個人で撮影してきた野良猫写真に想いを馳せられる、「飼い主のいない猫写真展」が開催されている。

展示風景

渡邉さんは10年以上前から、個人で猫の保護活動や犬シェルターのボランティアを行っており、2022年に「せぴうるにゃん府中」を設立。野良猫を「飼い主のいない猫」という言葉で表現し、できるだけリターンせず、里親に繋いだり終生飼養したりしている。

猫の魅力が伝わる“里親募集写真”を撮りたくて

渡邉さんが“飼い主のいない猫”を撮影するようになったきっかけは、10年ほど前に写真の力に驚かされたからだ。

展示作品より

当時、里親募集サイトのバナーにあったかわいい猫写真が目に留まり、写真をクリック。すると、その猫は多頭飼育崩壊出身で、貰い手がいなければ殺処分されてしまうとのことだった。

問い合わせると、レスキューされた猫は全7匹であることが判明。渡邉さんは母親に懇願し、7匹全てを引き取り、里親探しを開始した。

「でも、里親募集サイトに載せても閲覧数は全く増えず、里親希望のお問い合わせもゼロでした」

そんな状況を餌やりさんとの集会で話すと、その中にいたカメラマンが里親募集用の写真を撮ってくれることに。出来上がった写真は各猫たちのかわいさがしっかりと伝わるものであり、渡邉さんは衝撃を受けた。

「もともと写真を撮るのが好きだったこともあり、これで救われる命があるなら、私も里親募集用の写真を上手く撮れるようになりたいと思ったんです」

野良猫写真の撮り方やネットでの公開に疑問を感じるように…

そのカメラマンさんから一眼レフを貰った渡邉さんは当初、「かわいい」「美しい」「逞しい」と思う野良猫写真を撮影していた。だが、次第にそうした写真をネットで発信することが正しいのか分からなくなっていったという。

展示作品より

「写真と言葉をセットで出しても、ネットで写真が独り歩きしたり、キャプションだけ切り取られたりしたことがあったからです」

また、動物福祉を学ぶうちに、猫は家の中で暮らす動物であるという持論に至ったため、野良猫の「かわいい」「美しい」「逞しい」姿をネットで公開することを辞めた。

今回、写真展の開催に踏み切ったのは周囲の声に背中を押されたからだ。

展示作品より

2022年、渡邉さんはクラウドファンディングで動物保護活動の資金を募集。撮りためた写真をフォトブックにまとめ、リターン品とした。

「でも、本当に伝えたいことがまとまっておらず、中途半端な仕上がりになってしまったと感じたので、その後、構成を練り直し、自分の書きたいことや伝えたい写真を載せたフォトブックを作り、昨年8月に行ったクラウドファンディングのリターン品にしました」

すると、手に取った人から「このフォトブックは保護活動者が活動している意味や活動そのものを表している」「価値がある」との嬉しい言葉を貰え、写真展示開催のオファーを受けたのだ。

「正直に言うと、写真の価値は、私が1番分かっていないんです。ただ、人や猫の役に立つなら…と、ひたすらに撮影してきただけだったので、自分が1番驚いています」

単に“かわいい写真”として消費されないようにしたい

今回の写真展では、単なる「かわいい猫写真」として消費されないよう、写真の真下にはその猫のニャン生を明記。愛猫や飼い主のいない猫について考える時間を、1分でも作りたいという願いを込めている。

展示作品より

「野良猫のかわいい、美しい、逞しい写真にはSNSで多くの反響が寄せられますが、飼い主がいない生活を続けることは、本当に猫の幸せに繋がるのか、かわいいの搾取になっていないのかを考えてほしいです」

そう伝える渡邉さんは一般的な知識や教養となるよう、動物福祉の啓発活動にもより力を入れていきたいと意欲を燃やす。

展示風景

「ネット社会の今、里親様と保護猫を繋ぐのは、その猫の良さが出た写真だと私は思っています。上手い下手ではなく、良さが出た写真を全面に押し出していれば、里親様が見つかる。私は、そのお手伝いをしたい」

自分がプロの写真を見た時に味わった感動を、いつか人に届けたい。そんな夢も抱きながら、渡邉さんはこれからも保護猫たちの写真を撮り続けていく。

『飼い主のいない猫写真展 Photo by Canary Watanabe』
期間:2024年2月1日(木)〜2月29日(木)
時間:10:30〜19:00(初日13:00〜)
休み:2月7日(水)、2月26日(月)
会場:Space KURURU ウォールギャラリー
住所:東京都府中市宮町1-50 くるる4階

(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)

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