社説:ガザ最南部侵攻 避難民の殺りく止めよ

 100万人以上の避難民らであふれる「瀬戸際の地」であり、大規模な攻撃による惨事を何としても避けねばならない。

 パレスチナ自治区ガザに侵攻を続けるイスラエルのネタニヤフ首相は、最南の都市ラファへの地上作戦を指示した。

 ガザのイスラム組織ハマスが提示した休戦案を「妄想じみた要求」と拒絶し、徹底的に攻撃する構えだ。

 4カ月にわたるイスラエル軍のガザ攻撃は、北部から南へ拡大した。エジプト国境に近いラファには北・中部から避難民が流入し、約150万人がひしめきあう。多くがテント暮らしの劣悪な環境で、砲火におびえて過ごす。

 食料などの物資はイスラエルの制限でわずかしか入らず、飲み水すら長い行列に並ばないと得られない深刻な事態が続いている。

 そんな追い詰められた市民たちが、激烈な地上攻撃にさらされることがあってはなるまい。国連総会でグテレス事務総長は「悪夢のような人道状況がさらに悪化する」と強く警鐘を鳴らした。

 戦闘が始まってからのガザ側の死者は2万8千人を超え、負傷者や行方不明を合わせると約10万人に上る。ネタニヤフ氏は、民間人の避難場所を用意すると言うが、すでにラファの空爆や南部の病院などへの無差別的な攻撃で犠牲者が膨らんでいる。

 先月、国際司法裁判所(ICJ)は、イスラエルに対して民族大量虐殺(ジェノサイド)を防ぐ「あらゆる手段」や人道支援の確保を行うよう命じた。国連加盟国は順守する義務を負っており、各国が一致して休戦の実現に力を尽くすことが求められる。

 特にイスラエルの後ろ盾である米国の責任は重い。バイデン大統領は、ラファ侵攻に懸念を直接伝えたというが、これまで苦言は呈しつつも、巨額の軍事支援で後押ししてきた。アラブ諸国などの不信と反発を広げ、中東情勢を不安定化させていることを認識し、即刻改めるべきだ。

 現地で人道支援を担う国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を巡り、日米欧などが資金拠出を一時停止する動きは見過ごせない。スタッフが戦闘発端のハマスの奇襲に関与した疑惑が理由だが、機関が調査中であり、一部が関わったとしてもガザ住民の命綱を危うくするべきではない。

 活動継続を支えようとスペインは追加資金を出すという。日本も速やかに再開し、人道危機を救う主導的な役割を果たしたい。

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