天王洲アイル「ビジネスイノベーション拠点」の可能性を探る

東京・品川駅に隣接し、東京モノレールとりんかい線が交差する運河の街・天王洲アイル(東京都品川区)は、「水辺とアートの街」として注目されています。世界に目を向けると、水辺とアートを彩る都市の共通点は「ビジネスイノベーション拠点」であることです。ビジネスイノベーション拠点としても注目されている天王洲アイルの実態と可能性を紹介します。

New York Brooklynの水辺(左)、Brooklyn 「NEW LAB」## 世界の水辺エリアで生まれるビジネスイノベーション拠点

アメリカ・ニューヨーク、ブルックリンのウォーターフロントに、2016年、築200年を超える海軍造船所をリノベーションして生まれ変わった「NEW LAB」が誕生しました。この施設は、起業家、アーティスト、デザイナーが集うクリエイションワークスペースです。公募で選ばれたさまざまな分野の専門家が集い、スタートアップエコシステム共創プログラムを推進するためのワークスペースとなっています。「水辺×アート×ビジネス」の融合が、新たなイノベーションを生み出すとして、現在でも注目を浴びています。

フランス・パリ セーヌ川沿い(左)、スタートアップキャンパス「STATION F」

また、2017年には、フランス・パリ、セーヌ川沿いの旧駅舎を利活用して、世界最大級のスタートアップキャンパス「STATION F」が誕生しました。さらに、オランダ・ロッテルダムやアメリカ・ポートランドをはじめとした象徴的な水辺を有する都市で、アートとクリエイションのコラボレーションによるビジネスイノベーション拠点が生まれています。

天王洲アイルのビジネスイノベーション拠点としての可能性

天王洲アイルは、四方を運河に囲まれ、運河沿いのボードウォークをはじめ開放感のあるオープンスペースがあり、まち全体にアート作品がちりばめられています。身近にアートを感じられる空間との融合は、人間の「クリエイション」や「アソシエイション」を呼び覚まし、文化活動や経済活動をより活性化させる効果があると言われています。天王洲アイルがこのような特性を有していることは、「ビジネスイノベーション」が、ここでも誕生させることができるのではないかと考えています。

天王洲「Samurai Startup Island」(左)、「SAMURAI ISLAND EXPO’17」in 天王洲## これまでに開催されたスタートアップイベント

天王洲アイルでは、これまでに多くのベンチャー企業が生まれています。2011年、「日本を、スタートアップの聖地に」をスローガンに誕生した「Samurai Startup Island」(コワーキングスペース)を皮切りに、さまざまなスタートアップイベントが行われてきました。倉庫をリノベーションしたイベントスペースではテック系のハッカソンイベントが行われ、海外のスタートアップ企業が集まったイベントでは、水辺のオープンスペースをミーティングやセッションに活用しました。こうした実績を経て、スタートアップイベントがいつでも開催できる環境になっています。

羽田空港から近く、品川駅に隣接する天王洲アイルは、日本や世界各地から人が集まりやすい地の利もありますが、スタートアップイベント主催者は、「水辺とアート」の空間が参加者に没入感(マインドリセット)を抱かせ、集中しやすい場を創ると言っています。運河に囲まれ、まち全体がミュージアムのような天王洲アイルは、アートがもたらす非日常や隔世を感じさせ、没入しやすい場となっていると言えるでしょう。今後もこのような新たな場の空気をどうのように創っていくのか、ビジネスイノベーション拠点となるための大事な使命です。

イベント会場を回遊する給水自動配送ロボット(左)、ボードウォーク手摺にかけられた簡易テーブル## 街中のオープンスペースを実証可能な「PoC」プレイスに

昨年、TENNOZ CANAL FES 2023夏のイベントで、自動配送ロボットを開発する天王洲のスタートアップ企業が、暑さ対策のために給水サーバーを載せたロボットをイベント会場に回遊させ、多くの反響がありました。また、水辺のボードウォークを居心地のよい空間に変えるツールとして、組立式の簡易テーブルを転落防止柵に設置し、水辺のオープンスペースを有効活用する新たなツールの実証実験が行われました。このようにまちの中で行われる実証実験は、PoC(Proof of Concept)と呼ばれ、「概念実証」と言われています。天王洲アイルは、運河・陸・空も含めたPoCのプレイスとして、新しい角度からビジネスイノベーションが創造されると感じています。

天王洲アイルの新しい価値観を創るビジネスイノベーション空間 (アイルしながわ〈左〉/JAL Innovation Lab)## まだ見ぬ価値観をビジネスとして表現できる街、天王洲アイルのこれから

1985年、天王洲開発総合協議会が発足。「天王洲アイル」は、当時、日本最大規模(22ha)の都市再開発として、「人間の知性と創造性に働きかける環境づくり」をコンセプトに設計され、誕生しました。現在も天王洲アイルのまちづくりはこのコンセプトを守り続けており、そしてこれからも継承されていきます。長い時間をかけ、コンセプトを守ってきたことが、まちとしてクリエイティブな土壌を作り、肥やしてきました。その土壌があるからこそ、アートやイノベーション企業が育っています。もっと豊かさをもたらすために、新しい種をまくことがとても大切だと思います。ニューヨークのブルックリンでは、新たな種を蒔いてビジネスイノベーションの拠点として生まれ変わりました。天王洲アイルでは、個々人(n=1)の熱量を尊重し、新しい価値観を打ち出す。まさにアーティストのような起業文化を創ることが、「天王洲アイル」のまちの意義だと考えます。

まだ見ぬ価値観を築く、新たな(ビジネスイノベーション)拠点が、まもなく誕生する予定です。芽吹きの季節に天王洲アイルへ足を運んでいただき、水辺とアートの中に新しい価値の息吹を感じてもらえたらと思います。

寄稿者 閑野高広(しずの・たかひろ)寺田倉庫㈱CEO付ミライ創造室副室長 兼 エリアマネジメントTENNOZおよび天王洲・キャナルサイド活性化協会事務局

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