正月三が日の「世界遺産」日光は初詣客でごった返していた。その喧騒(けんそう)をよそに、市内の木造平屋で4人住まいの母子家庭は飾り気のない日常を過ごす。
「部屋は広いんだけど、寒いから自然と集まっちゃう」
1月2日午前。中学2年、理菜(りな)さん(14)=仮名=が少し恥ずかしそうに話す。
理菜さんと母親(37)、小学生の長男(12)、次男(11)の4人が身を寄せ合うこたつの上には、飲み物の入ったコップとお菓子が並ぶだけ。
理菜さんは、いつもより体調の良い母親とおしゃべりし、弟2人は寝そべってゲームをしたり、母親のお古のスマートフォンでユーチューブを見たり。正月らしいことと言えば、だて巻きと餅を食べたことくらい。
のんびりとした時間が流れるこの家は、持ち家とも、一般的な借家ともまた違う。
NPO法人ぱんだのしっぽ(宇都宮市)が困窮するひとり親世帯に無料で提供している、ステップハウスと呼ばれる家だ。
◇ ◇
理菜さん家族がステップハウスに移り住んだのは、昨年10月のこと。それまでは宇都宮市内で家賃5万5千円のアパートで暮らしていた。
家計を一人で支える母親は、10年前の離婚前後から患う難病で疲れやすく、一般的な勤務時間に耐えられない。働いていた就労継続支援事業所を休まざるを得ないこともしばしばで、月々の給与は5万円に届けば良い方。児童扶養手当や元夫から養育費も受け取っていたが、家族4人での生活に余裕はない。
「うちはちょっと大変なのかも」
理菜さんは、なんとなく窮状を察するようになっていた。
スマホや大好きなアニメキャラクターのグッズが手に入らなくても、「仕方ない」。でも、つらいとは感じなかった。
それは、自分たちのために頑張っている母親の姿を見てきたから。
母親はいつも、「このくらいしかできなくてごめんね」と言って、申し訳なさそうに食卓にご飯を並べる。大体はうどんかチャーハン。おかずがない日も珍しくなかったが、毎日きちんと用意してくれた。
ただ、作り終えると「おなかがすいてないから、ちょっと休憩するね」と寝室へ行ってしまう。体調を思えば「仕方ない」ことだと分かっているが、それだけは、さみしく感じていた。
◇ ◇
昨年9月上旬、深夜。
理菜さんが寝室でまどろんでいると、扉越しに母親のすすり泣く声が聞こえてきた。
誰かと電話しているようだ。何を話しているのか気になって、自然と耳をそばだてた。
「助けてください。もうどうしようもなくて…」
もしかして-。理菜さんははっとした。「家計がこれまでよりも大変な状況になってる?」
輪郭を帯びて迫り来る窮状に、言葉にならない不安を覚えた。
◇ ◇
10年前よりも子どもの貧困率は改善された一方、いまだ17歳以下の1割以上が相対的貧困の中にいる。新型コロナウイルス禍や物価高騰もあり、少なくない親子が広がる格差の現状でもがく現実がある。苦しい暮らしは子どもの成長にどう影響し、子どもはどのような思いを抱いているのか。その姿を追う。