H3ロケットマネジャー岡田匡史さん「心が折れそうな時に救われた声」 エネルギー源になった子どもたちからのエール

JAXA筑波宇宙センターを訪れた大森陽生君(右)からの手紙を手にする岡田匡史さん=2023年11月、茨城県つくば市
昨年3月、岡田匡史さんから福井新聞社に届いた大森陽生君への手紙。「ロケットエンジニアはへこたれません。必ず近いうちに打上げ成功させます」などと書かれている

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は国産新型のH3ロケット2号機を2月17日打ち上げる。1号機の打ち上げ失敗から1年。福井新聞の記事をきっかけに、JAXAの岡田匡史プロジェクトマネジャー(61)と交流が生まれた、宇宙大好き少年の大森陽生君(9)=福井県鯖江市=は「次こそ成功を」と熱い視線を送る。H3開発を率いる岡田さんは本紙の取材に「H3ロケットの燃料は水素と酸素ですが、ロケットエンジニアの燃料は全国の子どもたちのエール」と語った。

 1号機の打ち上げ失敗は2023年3月7日。岡田さんは直後の記者会見で「このような結果になり申し訳ない。1日も早くリターン・トゥー・フライト(飛行再開)を目指したい」と語った。打ち上げ失敗を学校で知ったという大森君は、帰宅後すぐに会見の映像を確認。本紙記者に「『夜明け前が一番暗い』という言葉がある通り、必ず成功すると思う。なぜ失敗したかを考え、改良して成功につなげてほしい」と話した。

 失敗翌日、本紙ホームページで大森君のエールの記事を読んだという岡田さんは3月中旬、本紙に大森君宛ての手紙を寄せた。「応援のメッセージをありがとう!」「ロケットエンジニアはへこたれません。必ず近いうちに打上げ成功させます。陽生君、お互いがんばろう!」とつづり、大森君は「(会見していた)あの人から!? うれしい」と驚いた。大森君はJAXA筑波宇宙センター(茨城県つくば市)の特別公開日だった23年11月、岡田さんに会いに行き、交流を深めた。

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 2号機打ち上げを前に岡田さんは2月10日、本紙の取材に「甘えるつもりは決してありませんが、打ち上げに失敗し苦しい時にエールを送ってくれたことは何より心の支えでした。大森君が(数学検定2級取得や英語、物理など夢に向かって)頑張っている姿を見て、自分も頑張ろうとも思いました」と明かした。大森君をはじめ、全国にはさまざまな形で見守ってくれている人がたくさんいるとし「ロケットエンジニアの燃料は全国の子どもたちからのエールです」と強調。「打ち上げ準備は整いつつある。神経を研ぎ澄まして丁寧に作業を積み重ね、仲間とともに打ち上げの瞬間を迎えたい」とした。

 大森君は福井から種子島へエールを送る。「H3を今度こそ成功させて、日本の宇宙開発の遅れを取り戻してほしい。福井から願いを送るし、日本中の人たちも同じだと思う」

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 JAXA筑波宇宙センターでの面会を振り返り、大森君は「岡田さんはとても前向きだったので、次はやってくれると思う」と2号機の打ち上げ成功を信じている。

 2人の交流のきっかけは打ち上げ失敗後の昨年3月。岡田さんは大森君宛ての手紙を送った心境について当時、本紙記者にメールで「これまでも何度か厳しい局面を迎えたとき、自分たちの使命が何であるかを考えて立ち向かうのですが、それでも心が折れそうになったときに皆さんのまなざしや声に救われてきました」とつづった。大森君に対しては「ぐんぐんまっすぐに成長し、将来の地球人をリードしてくれることを心の底から祈っています」とエールを送った。

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 大森君は岡田さんに会いたいと昨年11月、筑波宇宙センターに向かった。笑顔で握手を交わした大森君は「今度は成功させ、人類の役に立つ人工衛星を積んだロケットをたくさん打ち上げてください。そして僕たちの世代に開発を引き継いでください。僕もいつか自分たちで設計したロケットが打ち上がる時を見てみたいです」と持参した手紙を読んだ。

 「最高に幸せ。私は君たちのために仕事をしている」。岡田さんから笑みがこぼれ、全国の子どもたちが開発の原動力だと語りかけた。

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