芸術との出会い(2月16日)

 文豪の審美眼に舌を巻く。川端康成は、無名だった当時の芸術家草間彌生さんの作品を所蔵していた。1955(昭和30)年、水彩画を2点買った。草間さんはこの時、26歳。川端は作家としての地位を確立し、美術愛好家として知られていた▼東京・銀座で開かれた小規模な個展にふらりと立ち寄ったという。購入した抽象画「不知火[しらぬい]」は、暗い色の画布に小さな火の玉がぽっと浮かぶ。草間さんがモチーフとしている水玉模様を思わせる。川端は絵を目にした瞬間、若き才能のきらめきを感じたのだろう▼福島市の県立美術館は、県内ゆかりの若手芸術家を紹介する企画展「福島アートアニュアル」を来月3日まで開いている。漫画やアニメなど、流行を創作に取り入れた20~30代の女性3人のアートが並ぶ。油彩や映像を組み合わせた仕掛けが印象的だ▼草間さんは個展の後、渡米して成功を収めた。「川端さんが買ってくれたのは一番美しい思い出」と振り返る。偶然の出会いが、芸術家に転機をもたらしたりする。この週末、県都の企画展に出かけるとしよう。透明な水を張った池を抜けると、そこにきらめく個性が待つ。対価を求めない作品もまた、美しい。<2024.2・16>

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