「コジン」の「オクリモノ」を紹介 兵庫陶芸美術館「令和の新収蔵品展」 【Rミュージアム・トーク】

淡路製陶《色絵松鶴図花瓶》(1対)19世紀後半~20世紀前半(明治時代後期~昭和時代初期)

兵庫陶芸美術館(兵庫県丹波篠山市)では2月25日(日)まで、特別展「令和の新収蔵品展―『コジン』からの『オクリモノ』―」が開かれている。展示について分かりやすくひもとく解説シリーズ「リモート・ミュージアム・トーク」の今回の担当は、同館学芸員の高村恵利さん。閉幕まであとわずかとなった同展の見どころを教えてもらう。

【写真】表面の彫り目「鎬」の色の濃淡が味わい深い逸品

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兵庫陶芸美術館では、2024年2月25日(日)まで、特別展「令和の新収蔵品展-『コジン』からの『オクリモノ』-」を開催しています。

2005(平成17)年に開館した当館では、当初1000件あまりであった収蔵品が、今年に入って3274件となりました。作品の収集方法は、主に購入と寄贈によっておこなっていますが、近年は寄贈が多くを占めています。当館の収蔵品は、いずれも「コジン(古人・個人)」が愛蔵し、現代の私たちに届けられた「オクリモノ(送りもの・贈りもの)」です。

本展では、令和に入って新たに収集した兵庫県内産の古陶磁と、4つのコレクションをご紹介します。

■淡路製陶《色絵松鶴図花瓶》(いろえまつつるずかびん)

淡路製陶は洲本市で焼かれた陶器です。本作の高台内の印銘「福平」は、明治時代より活躍した珉平焼(みんぺいやき)の元陶工・田村福平です。福平らは、明治29年に淡路製陶株式会社(洲本市)を設立しました。

胴部には、青みがかった灰色の海上に浮かぶ岩場に生える松竹梅と、淡い赤い色のグラデーションかかった空を飛翔する鶴の群れが描かれています。一見すると釉薬の下に絵付をする釉下彩(ゆうかさい)のようですが、器面は白化粧をした後、透明釉が掛けられ、釉上に絵付されているのがうかがえます。

本作は、高さ40センチを超える一対の大型製品で、釉下彩風の絵付や、一部に金彩が施されていることから、まれに見る優品といえるでしょう。

■生田和孝《糠釉色分鎬徳利》(ぬかぐすりいろわけしのぎとっくり)

鳥取県生まれの生田和孝(1927~82)は、戦後、京都の河井寬次郎(1890~1966)らに師事した後、現在の丹波篠山市今田町に移り住みました。生田は、無名の職人が作り出した日常の生活道具に美を見出す民藝(みんげい)の精神を基に、主に日用のうつわを制作しました。

本作は、成形後、胴部に自作の道具で、鎬(しのぎ)と呼ばれる彫り目を施しています。その後、青みを帯びた糠釉(ぬかぐすり)を全体に掛け、鎬面を中心に黒褐色の鉄釉を掛け分けたと考えられます。鎬の凹凸面は、掛けられた釉薬の量により、色の濃淡が生まれています。

器形は、江戸時代から丹波で生産されていた蝋燭徳利(ろうそくとっくり)に類似し、本作からは、丹波の伝統的な技法を取り入れ、自身のスタイルを確立していったことが考えられます。

今回の展覧会では、兵庫県の古いやきものだけでなく、佐賀県の有田地方でつくられた伊万里焼に加えて、重要無形文化財保持者(人間国宝)や新進気鋭の若手作家が制作した現代陶芸もお楽しみいただけます。

バリエーション豊かなやきものを、ぜひご覧ください。(兵庫陶芸美術館学芸員・高村恵利)

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