漫画「保健師がきた」、静かな反響 埜納タオさん新作 住民に寄り添い成長する主人公描く 兵庫在住、地元の市職員を取材

「保健師がきた」を描いた埜納タオさん(手前)と取材協力した(後列左から)大橋節代さん、長谷川知佳さん、藤本沙耶さん=小野市役所

 兵庫県小野市在住の漫画家埜納(ののう)タオさん(52)の新作「保健師がきた」が発売され、静かな反響を呼んでいる。主人公は保健センターで働く新人保健師の「サンゴ」。「誰ひとり取りこぼさない」をモットーに、福祉や医療の社会課題に直面しながら住民に寄り添って活動し成長していく。小野市市民福祉部の保健師に取材し、誠実な作品作りを心がける埜納さんは「保健師の仕事に関心を持つきっかけに」と望む。(坂本 勝) ### ■「細かい所まで描かれて驚き」

 埜納さんは広島県福山市生まれで1994年にデビュー。新米女性司書の活躍を描いた作品「夜明けの図書館」で知られる。小野市には2001年から住み、創作やイラスト制作に励んでいる。

 新型コロナウイルスの感染者が急増し、社会問題になった頃、感染予防に奔走する保健師の役割に関心を持ち、21年10月に小野市健康増進課の大橋節代課長ら保健師3人に話を聞いた。大橋さんは「感染の不安を訴える相談や慣れないワクチン接種に追われ『いつまで続くのだろう』と疲弊感が職場に漂っていた頃。保健師を漫画に描いてもらい、仕事の魅力について大勢に知ってもらいたいとみんなで勤務時間外に取材を受けた」と振り返る。

 当時の新人保健師として紹介されたのが、入庁3年目となった藤本沙耶さん(25)と4年目の長谷川知佳(ちか)さん(26)。保健師を目指した理由などを聞き、慣れない仕事に励む姿を見て物語の展開を温めた。作品は個別事案には関係のない作り話だが、長谷川さんが高校時代に陸上部員だったことなど作品に生かした部分もある。小野市は市民福祉部の保健師13人が漫画を生かした保健師活動のPRに貢献したとして表彰した。

 藤本さんは「客観的に描かれた漫画を読んで新人の頃の気持ちを思い出した。細かい所まで描かれていると驚いた」、長谷川さんは「保健師の役割を大勢の人に知ってもらう良い機会になる」と感謝する。

 埜納さんは「周りに目を向け『困っている人がいないか、みんなで考えてみない?』と問いかけるような作品を描きたかった。公共性のある仕事は地味だが、心温まる話に着地できれば。非効率でもしっかり取材した作品を残していきたい」と話す。

<保健師がきた①> 双葉社刊。税別740円。「誰ひとり取りこぼさない」をモットーに、新人保健師の三御一花(通称サンゴ)が医療や健康、社会福祉に関わる活動に奔走する姿を描く。個性的な指導者、七海さやかに見守られながら子育てや健康に不安を抱える住民に寄り添い、解決策を模索する。月刊漫画雑誌「JOUR(ジュール)」で連載中。

【保健師】看護師免許に加えて保健師養成課程(1年以上)を修め、国家試験に合格する必要がある。治療中心の業務に携わる看護師に対し、予防を中心とした業務を担う。

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