イライラ、不安、やる気が起きない、その原因は「食」のせいかも。ココロの不調回復に【食べてうつぬけ】

「ココロの病は薬を使って治すもの」と思われがちですが、実は大切なのは食事にあると「最新版 マンガでわかる ココロの不調回復 食べてうつぬけ』の著者・日本栄養精神医学研究会会長の奥平智之先生に伺いました。ココロの不調と食事との密接な関係とは?

ココロや体の不調に耳を傾けよう

朝、気持ちよく目覚められない、なんとなくだるい、イライラが抑えられない……。もしそんな気持ちが毎日続くようであれば、あなたのココロがSOSサインを出しているのかもしれません。

その解決には、心療内科や精神科に行って、抗うつ薬や抗不安薬や漢方薬などを処方してもらう、あるいはカウンセリングやマッサージ、鍼灸治療を受けるなど、さまざまな方法が考えられます。

でも実は、もっと大切なことがあります。それは、食事です。

メンタルヘルスは食事から

どんなにすぐれた治療法でも、食事という「体を支える土台」がグラグラだと、なかなか改善できません。必要な栄養がちゃんと腸から吸収されて、血液に乗って必要な細胞に届けられれば、細胞の1つ1つが元気を取り戻します。また、必要なときに必要なホルモンが正しく分泌されれば、よく眠れたり、ホッとしたり、ストレスがあってもすぐに立ち直れたりします。

精神科で処方される薬で多くの人の症状はかなり目立たなくなりますが、それはあくまでも対症療法。症状に栄養や腸の問題が影響している場合は、まずそれを解決することが大切です。

例えば鉄欠乏、血糖調節障害、ビタミンB群不足……これらの問題が小さくなると、不調が軽くなり、完全に消えてしまうことも。体が整うから、ココロも元気になるのです。まずは体質を改善して、根本的な回復を目指しましょう。

精製糖質が血糖の乱高下の原因

ココロの不調の改善には、食事の見直しが欠かせません。不調な人を調べると、多くの人は「低たんぱく・糖質過多」で、糖質のとり過ぎが大きな問題となっています。

糖質とは、主食やお菓子などに多く含まれる栄養素です。消化されて単糖類となり、腸から血液に入り、全身の細胞のエネルギーになる一方、とり過ぎると精神症状に影響したり、中性脂肪として蓄積されたりします。「血糖値」とは、血液中に溶け込んだ単糖類の中のブドウ糖(グルコース)の濃度のことで、この糖質が血糖を急激に大きく上げる栄養素となっています。

糖質過多の第1の問題は、血糖を下げるホルモンと上げるホルモンが綱引き状態になり、血糖が乱高下してしまう「血糖調節障害」を引き起こし、ココロを不安定にしてしまうこと。

第2の問題は腸内環境の悪化。

第3の問題は、糖のエネルギー変換に大量のビタミンB群が使われてしまうこと。ビタミンB群は、体内でのエネルギー産生に必須なので、足りないとエネルギー不足に。

糖質の中でも特に精製糖質は、白い砂糖や小麦粉、白米、清涼飲料水に主に含まれる異性化糖(果糖ブドウ糖液糖など)のことを言い、とり過ぎには注意が必要です。精製糖質過多の最大の問題は、血糖の乱高下。甘いものをたっぷり食べたり、おかずが少なく主食がほとんどの食事(パンや丼物)をしたりすると、セロトニンが一瞬だけ増え、ハッピーな気分になりますが、持続性はありません。

一方体内では、急激に高まった血糖を下げるためにインスリン※というホルモンが大量に分泌されます。血糖が急激に下がって「低血糖」の状態になり、イライラ、だるい、眠いといった症状に。この血糖の乱高下が、ココロの不安定の一因となります。

※インスリンは、血液から脳内へのトリプトファン(セロトニン•メラトニンの材料)の取り込みを助ける。一方、糖質過多によるインスリンなどの過剰は、うつ病のリスクに。

糖質のとり方を工夫しよう

避けるべきは、砂糖、小麦などの「血糖を急上昇させる」糖質です。白米よりは玄米や分づき米のほうが、血糖の急上昇は抑えられます。玄米はよくかまないと胃腸の負担に。かめない人は分づき米から始めましょう。もち麦や押し麦、オートミールに豊富なβグルカンは、水溶性食物繊維を多く含むため、血糖の急上昇を緩和します。また、腸内細菌が水溶性食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸を生成し、血糖を下げるホルモン(GLP–1) の分泌を促進します。

血糖の急上昇を抑える食べ方ルール

食べてOKのものを、しっかりとることが大切です。3つのルールを知って、血糖の乱高下を抑えましょう。

ルール 1 血糖を急上昇させないおやつを食べよう

お菓子や果糖ブドウ糖液糖を含む清涼飲料水やジュースをやめて、血糖を上げにくいおやつを食べるようにします。

【たんぱく質おやつ】
ココロと体の回復に欠かせない栄養素がたんぱく質。食事だけでとりきれない分を、おやつでしっかりとりたい。よくかんで食べよう。

ゆで卵 、小魚、枝豆焼き鳥(塩)、さば缶などの魚缶(水煮)、豆腐、成分無調整豆乳、豆乳ヨーグルト、プロテイン、プロテインバー(低糖質)、ナチュラルチーズ※

※ カゼイン(乳製品に含まれるたんぱく質)にアレルギーのある人は注意。

【脂質おやつ】
オイルは、低コレステロールを改善し、低血糖を緩和してくれる。ほかにも体にいい作用がいっぱい。あくまで「良質の油」を!

ナッツ(くるみ、アーモンド、マカダミアナッツ、サチャインチナッツなど)、チアシード、ココナッツバター、ココナッツミルク、 MCTオイル(豆乳に入れるのがおすすめ)

ルール2 よ~くかんで食べよう!

・最初のひと口だけでも意識して30回かむと、食事のスピードが抑えられる
・よくかむと唾液や胃酸が分泌されて消化吸収能力が高まる
・食事に時間をかけることで、満腹感が得られて食べ過ぎ防止に
・脳細胞の働きを活発にしてくれる

【たんぱく質は毎食2種類】
たんぱく質といえば、肉・魚・卵・大豆。毎食2種類、1日の中では動物性も植物性※も両方とることが大切です。たんぱく質は、幸せホルモンや消化酵素の材料。たんぱく質が豊富な食材には、ビタミンやミネラルも豊富。ストレス状態で活性酸素がたくさん出ていると、それを打ち消すためにビタミンやミネラルが使われます。メンタル不調のときは、「通常よりも少し多めのたんぱく質、少し多めのビタミン・ミネラル」を心がけましょう。

※腸内環境や腸の炎症の改善には、植物性のたんぱく質も重要。

ルール3 おかずを先に、ごはんを最後に食べよう!

1 肉・魚・卵
最初にたんぱく質のメインディッシュを。肉などに含まれる鉄やビタミンB群を確実にとりたいので、食欲があるうちに先に食べる。

2 野菜
次に野菜を。食物繊維が血糖の急上昇を緩和したり腸を整えたりする。アボカド・海藻・きのこもおすすめ。抗炎症対策にも。

3 ごはん
ごはんは最後に。血液検査で中性脂肪が低い人は、低血糖にならないように、3食お米をきちんと食べる。残ったら2時間後に。

【しっかり食べられるなら野菜が先でOK】
血糖の上昇を抑えたり、有害物の排出を助けたりする野菜は、食物繊維が豊富なので、しっかり食べられる人は先に野菜を食べたほうがより効果的です。食物繊維を最初にとると、肉の摂取に伴う潜在的な炎症リスクの軽減につながります。

監修者
栄養精神科医 奥平智之

おくだいら・ともゆき
日本栄養精神医学研究会会長・医療法人山口病院副院長(埼玉県)
栄養の問題に起因するうつ状態を「栄養型うつ」と命名し、「栄養精神医学」の大切さを啓発。血液検査結果の解析などを活用し、個々の体質や病態に合わせ、食事や栄養、漢方を取り入れた診療を実践している。漢方専門医、認知症専門医、特別支援学校 校医、日本うつ病学会評議員、日本スポーツ医学会 理事、日本未病学会 評議員など。著書に『マンガでわかる 食べてうつぬけ 鉄欠乏女子救出ガイド』(主婦の友社)ほか多数。

※この記事は「健康」2024年冬号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。


© 株式会社主婦の友社