社説:複合災害への対策 丹後半島の地震の教訓、胸に

 原子力規制委員会が、原発事故時の住民避難について、複合災害を想定して対策指針を見直す議論を始めた。

 能登半島地震では、北陸電力志賀原発が立地する志賀町で最大震度7を記録。一円で道路が寸断し、孤立する集落が相次いだ。家屋の倒壊や津波警報で住民の多くは屋外に避難した。

 京都府は、舞鶴市から丹後半島にかけ、関西電力高浜原発から半径30キロ圏内の緊急防護措置区域(UPZ)に含まれる。さらに舞鶴市の一部は、同原発の5キロ圏内にも入る。

 原発事故に関する現行のUPZ対策指針は、被ばくを避けるための屋内退避が柱で、家屋が多数倒壊する地震や津波などの被害が重なる「複合災害」を具体的に想定していない。

 半島の地理条件では、複数の避難路の確保は容易でない。代替手段である海路による避難や救援も、今回の地震により、隆起や津波被害で港湾が使えなくなるリスクが明らかになった。

 自治体が立てる原発事故の避難計画は、複合災害を想定して避難方法の優先順位などを考える必要があろう。

 実効性を確保するため、国には一段と踏み込んだ対応が求められる。複合地点で発生する災害の避難渋滞をシミュレーションし、複数の避難路を整備するなど、財政面の問題を含めて国が果たすべき役割は大きい。

 今回の地震を受けて見直すという規制委の審査内容については、複合災害への備えが万全かどうかも重要項目にすべきだ。宮城県牡鹿半島にある東北電力女川原発は年内の再稼働を目指すが、原発利用へ前のめりな政権の姿勢に左右されず、慎重に検討してもらいたい。

 半島で起きた複合災害では、京都を直撃した1927(昭和2)年の北丹後地震(丹後震災)の教訓も心に刻みたい。

 3月7日に発生し死者2925人。倒壊した家屋から出火し、渦巻く炎が次々と延焼した。震源地は竹野郡郷村(現・京丹後市)で、マグニチュード7.4級だった。地震による山津波で道路は寸断し、救援の到着は遅れた。

 水害と重複したことも災害を深刻にした。発生翌日夜から暴風雨になり一部で堤防が決壊、3日目からは吹雪になり被災者を苦しめた。北丹後地震の調査は地震学転換の契機になったとされ、「活断層」という言葉が初めて使われた。

 丹後半島を含め、全国23地域が指定されている半島振興法は10年間の時限立法で、来年3月で期限が切れる。だが、過疎など半島地域の厳しい状況はいっそう深まっている。

 指定地域には、使用済み核燃料の再処理工場がある青森県下北半島、四国電力伊方原発が立地する愛媛県佐田岬などが含まれる。複合災害に備えて重点的な行財政支援を急ぎたい。

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