<7>絵馬で伝えた心の叫び ママは“孤育て” 希望って何ですか

保育園時代の歩美ちゃんが願いごとを先生に代筆してもらった絵馬。母・香さんは娘との時間を過ごせなかった後悔を忘れないよう今も自宅に飾る=1月29日午後、宇都宮市内

 宇都宮市内の市営住宅の寝室。布団に入った小学3年生、歩美(あゆみ)ちゃん(8)=仮名=が、隣にいる母親の香(かおり)さん(28)=同=に体をぴたりと寄せ、手を握った。

 「いつも、ぎゅって抱きつくの」という歩美ちゃんは、母に触れていないと眠りにつけない。

 「小さい頃の愛情不足の影響が、今出ているのかも」と香さん。

 歩美ちゃんは数年前まで、そのぬくもりを感じられない夜を過ごしてきた。当時の香さんは昼夜を問わず働き詰め。子どもと一緒に寝たり、お風呂に入ったりした記憶は少ない。

 親子が向き合うようになるまで、回り道した。

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 18歳で結婚し、歩美ちゃんと長男(7)を出産した香さん。結婚生活は数年で破綻した。

 発端は夫の不倫。別れ際、夫は子どものための貯金を全額引き出して姿を消した。一家の元には、手持ちの2万円しか残されていなかった。

 シングルマザーになって以降は、ダブルワークをして家計を支えた。昼はパチンコ店、夜は飲食店に勤務。日が暮れると近くにある実家に子どもを預け、毎日、午前4時過ぎに帰宅した。

 香さんを毎晩見送っていた歩美ちゃん。「行かないで!」と大泣きしたり、「いってらっしゃい」と手を振ったり。さみしくて、眠れない夜もあった。

 その頃の香さんは、稼ぐことが全てだった。「ひとり親だからって子どもに何かを我慢させたくない」。心はいつも張り詰め、周囲との孤立も深めた。

 「ちゃんと子育てできてるの?」「大丈夫なの?」。誰かと会うたび、母子家庭への偏見の目にさらされている気がして、会話が苦痛になった。

 保育園のお迎えでは、軽くあいさつを交わし、逃げるように先生の前から去った。ママ友もほとんどつくらなかった。孤独だった。

 でも、「孤育て」する香さんが自分を変えようと思えたのは、あの日、歩美ちゃんの「心の叫び」を聞いたから。

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 歩美ちゃんが保育園年長の頃のこと。園で「願いごと」の絵馬を作る時間があった。

 「私の夢はね…」。先生に伝えて、こう書いてもらった。

 「ままと いっぱい いっしょにいられますように」

 物心つき始めた娘の本音に、香さんは初めて触れた気がした。

 「普通は将来の夢とか書くじゃないですか」。でも、書かれていたのはささやかな願い。「やっぱり一緒に居たいよね、さみしかったんだねって実感させられて」。絵馬を受け取った日、香さんは自宅で、1人で泣いた。

 夜の仕事を徐々に減らし始めたのは、この頃から。「失われた時間を取り戻さなきゃと思ったんです」

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