<8>支え受けて小さな幸せ 向き合えた親子  希望って何ですか

親子を支援する居場所から自宅へ帰る歩美ちゃん(右)。母(中央)と手をつなぎ笑顔で話す姿が見られた=9日夜、宇都宮市内

 1月上旬、宇都宮市内の子ども食堂の遊び場で、小学3年生の歩美(あゆみ)ちゃん(8)=仮名=が、お絵かきに没頭していた。

 「これ、何描いてるか分かる?」

 「ピカチュウでしょ」

 ほほ笑みながら応じた母香(かおり)さん(28)=同=が続けてつぶやく。「本当に落ち着いたな。前はずっと座って絵を描くなんて、できなかったから」

 歩美ちゃんは1年生の頃から学校の授業についていけない場面が目立ち、今は一部の科目で特別支援教室を利用している。月に1度は同市の教育相談機関で学習支援も受ける。

 でも、運動神経にはちょっと自信あり。運動会で、クラスのリレー代表選手になったこともある。

 「勉強が難しければスポーツって感じで」。香さんは、我が子の育ちをおおらかに見つめる。

 3年ほど前、仕事をダブルワークから昼間のアルバイト1本に絞った。今は歩美ちゃんや長男(7)に、とことん寄り添える。

    ◇  ◇

 2022年冬。周囲との関係を断つように1人で子育てしてきた香さんが「外」へと踏み出した。

 友人の誘いで向かった先は、親子を支援する市内の居場所。「人とつながれて、息抜きできる場がほしい」と思っていた。

 週2回の利用。同じように子育てするお母さんたちと食卓を囲み、悩みを共有できるようになった。子どもの叱り方、褒め方-。「そんなきつい言い方、良くない」と諭しながら接し方を教えてくれるスタッフにも出会った。

 もう、自分の子育ては孤独じゃない。

 歩美ちゃんにも、変化が見え始めた。ある日の居場所スタッフとのやりとり。

 「学校の宿題終わった?」「もうやった!」

 勉強道具をしまい、遊びへ駆け出す。以前は宿題の未提出が当たり前で、少し問題が難しいと文字通り、放り投げていたから大きな進歩。

 「いろんな大人や子どもと関わって自分をコントロールできるようになってきた。私が落ち着いているから安心しているのもあるかな」と、香さんは考える。

    ◇  ◇

 1月下旬、夕。自宅でシチュー作りを手伝った歩美ちゃんが「料理は好きだよ」と得意げに笑った。

 香さんの月収はダブルワークしていた頃と比べ三分の一に減り、家計は苦しい。

 長男の体調不良などで仕事の休みが続いた昨年末は月収5万円。食事がとれる居場所や子ども食堂がなければ立ちゆかなかった。

 経済的には「最低限の生活」と香さん。でも今は、一緒に過ごせることを喜ぶ、歩美ちゃんたちの笑顔を大切にしたい。

 「大変だけど、充実してますよ」。小さな幸せが、とてもいとおしい。

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