「命さえあれば」温泉再建後押し 珠洲・宝湯にウクライナ女性から手紙

ウクライナ人女性からの手紙に目を通す橋元さん=珠洲市宝立町鵜飼

 能登半島地震で本館が全壊した珠洲市宝立(ほうりゅう)町鵜飼(うかい)の温泉銭湯「宝湯」に、地震前日に宿泊したウクライナ人女性(48)から手紙が届いた。女性は24日で2年となるロシアによるウクライナ侵攻直前に故郷を離れ、東京で暮らしている。手紙につづられた「命があって、家族さえいれば、後は何とかなる」というメッセージが再建を目指す店主の橋元宗太郎さん(40)の背中を押している。(珠洲支局・谷屋洸陽)

  ●大みそか宿泊

 女性はロシアの侵攻が始まる約1週間前に、仕事の関係で東京に引っ越した。宝湯の別館には家族や友人と5人で泊まり、元日にチェックアウトして輪島に向かい、午後4時過ぎに金沢で大きな揺れに遭った。

 2月に入って宝湯に届いた手紙には祖国がロシアの侵攻にさらされている現状に「尊い命が奪われ、住宅やインフラも破壊されている」と記されていた。最も価値が高いものは「命」と「家族」とつづられ、「ウクライナ人として応援しています。頑張ってください」と締めくくられていた。

 橋元さんによると、女性は宿泊の際、祖国に母と妹を残して日本で生活していると話していたといい、「悲しみを抱えた様子が気になった」と橋元さんは振り返る。

 宝湯がある宝立町は津波にも見舞われた。消防団員の橋元さんは地震直後から家屋の下敷きになった住民の救出に奔走し、身近な人が命を落とすつらさは「女性から聞いたウクライナの様子と重なった」という。

 手紙は、炊き出しのボランティアで珠洲に来た別のウクライナ人女性が届けた。橋元さんが手紙の入った箱を開けると、折り鶴とようかんも入っていた。橋元さんは「戦渦の祖国を気に掛けながら、宝湯を心配してくれる人がいるのかと思うと、うれしかった」と話す。

  ●「被災地と祖国状況似ている」

 手紙を送った女性は23日、北國新聞社の電話取材に「宝湯ではとても親切にしてもらった。被災地の状況が祖国と似ていると思っているうちに、自然とペンを執った」と話した。

 宝湯は別館での宿泊業を近く再開させる予定で、橋元さんは「頑張れるのはこの手紙のおかげ。いつか本館の浴場も復活させたい」と誓った。被災地を思いやる手紙を送った女性の祖国に、一日も早く日常が戻ってほしいと思う。

ウクライナ人女性から宝湯に届いた手紙(画像の一部を加工しています)

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