戦時下「被ばくリスク存在」 ウクライナ侵攻2年 現地専門家が長崎で講演 露軍原発占拠の実情語る

ロシアの侵攻による原発の状況などについて講演するウクライナ国立放射線医学研究センターのバジーカ所長=長崎市坂本1丁目、長崎大医学部記念講堂

 ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で2年。ロシア軍が原発を占拠し、放射線災害の懸念も指摘されている。こうした中、ウクライナ国立放射線医学研究センターのドミトリー・バジーカ所長が今月、長崎市で開かれた国際シンポジウムで講演。現地の状況や戦時中に高まる被ばくリスクなどについて語った。
 講演テーマは「チェルノブイリ立入禁止区域へのロシアの侵攻に伴う放射線の脅威と健康リスク」。ロシア軍は2年前の侵攻開始直後、1986年に爆発事故を起こしたチェルノブイリ原発を約1カ月間占拠。汚染地域で塹壕(ざんごう)を掘ったことなどで一時的に放射線量が高くなったという。
 バジーカ氏らは2022~23年、占拠の際に捕虜となった原発作業員を対象に疾患の有無などを調査。明確な因果関係は不明だが、作業員らの間で慢性心疾患や高血圧の症状が多くみられることが分かった。
 ウクライナ南部にある欧州最大のザポロジエ原発は現在もロシア軍が占拠。戦闘に巻き込まれて大事故につながる可能性や、ロシアが原発を放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」に変え、兵器として利用するのではないかとの懸念もある。
 バジーカ氏は「戦時中は被ばくリスクが存在する」とし、戦時ストレスによる免疫系統への影響なども含め「住民らの健康状態に関する研究を継続する必要がある」と述べた。
 チェルノブイリ原発事故を受け、長崎大は1991年から現地で健康管理調査や医療支援を始めるなどウクライナとの関係が深い。長崎大原爆後障害医療研究所の高村昇教授は「もし放射線災害が起きた場合は日本、そして長崎大として協力できる態勢が必要。ただ戦時下では支援が制限を受ける可能性があり、専門家育成のためにウクライナの医療関係者を招きたい」と話す。ただ一方で「(現在は)軍医として従事している人が多い上に一定年齢の男性は原則、国外に出られないようだ」と、もどかしさもにじませた。
 シンポジウムは医学的見地から放射線災害への対応を考えようと、長崎大や広島大、福島県立医科大などが15日に開いた。

© 株式会社長崎新聞社