ミサイル攻撃、台湾有事…想定事案は多岐にわたる国民保護 小さな自治体ができることとは

入院患者の搬送を訓練する消防隊員=1月21日、屋久島町宮之浦の屋久島徳洲会病院

 外国から武力攻撃が予測される場合に、どう住民を迅速に避難させるか。国民保護法に基づき、鹿児島県と内閣官房は1月21日、屋久島と口永良部島の計約1万1700人を本土に避難させる想定の訓練を実施した。県内初の実動訓練で、入院患者や福祉施設の入所者らを車に乗せ、港へ搬送する流れを確認した。

 参加した屋久島徳洲会病院の泊春代看護部長(52)は「訓練はスムーズだった」と話す。ただ同病院には約130人が入院しており、長時間の移動は体に負担にかかる恐れがある。泊部長は「フェリーで避難中に対応する医療関係者の確保も必要だ」と指摘した。

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 県の試算では、屋久島と県本土を結ぶ公共交通の輸送力は通常ダイヤで1日約2900人。この1年間、県と事業者が協議し、フェリーや高速船、航空機を増便し1日約6900人に増やした。全町民1万1700人の避難に2日かかる計算になる。

 有事の際は屋久島周辺の離島も避難対象となる可能性がある。だが複数の離島が同時に避難する手順や輸送方法、島にとどまることを望む人への対応は未着手。自衛隊が避難にどこまで関わるのかも不透明だ。

 同町の社会福祉法人愛心会の義山正浩理事長(51)は「真剣に考えれば考えるほど課題は出てくる。全島避難する事態になってはいけないし、改めて平和や命を考える機会になった」と振り返った。

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 県は新年度予算案に国民保護訓練事業504万2000円を盛り込んだ。県危機管理課によると、訓練開催地と内容は検討中。奇襲やミサイル攻撃への対応、避難先の確保、生活の保障-。国民保護のために想定すべき事案は多岐にわたり、現在の避難計画は実効性に課題が残る。さらに政府は台湾有事を念頭に、沖縄県の離島からの避難民を九州各県と分担して受け入れ、支援するよう求めている。

 中京大の古川浩司教授(51)=境界地域研究=は「小さな自治体はマンパワーに限界がある。避難手順や輸送方法を見直したり作成したりする段階で、周辺の自治体や防災に関わるNPOなど民間団体と連携してはどうか」と提案する。

 今回の訓練を視察した海上自衛隊OBで瀬戸内町の土井一馬防災専門監(57)=元海上自衛隊奄美基地分遣隊長=は「外交上の努力が最も大切。万が一、話し合いで解決できない場合に備える必要がある。『正しく恐れる』ために、奄美大島5市町村で情報共有や連携を進めたい」と話した。

入院患者の搬送訓練をする病院スタッフ=1月21日、屋久島町宮之浦の屋久島徳洲会病院

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