イライラやストレス。ココロの元気に必要な7つの栄養素とは?医師が解説

栄養素は、ココロや体の「材料」です。適切な栄養をとって、体の機能を調整すると、体調がよくなります。ココロの元気に必要な7つの栄養素とはなんでしょう? 日本栄養精神医学研究会会長の奥平智之さんにお話を伺いました。

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1【鉄】ココロに効く栄養素ナンバーワン!

脳内ホルモン、ミトコンドリアで、エネルギーを作る上で必須のミネラルが鉄です。

実は、老若男女の不調の多くに、鉄欠乏が影響しています。ヘモグロビン値に問題がなく、貧血ではなくても、「フェリチン(貯蔵鉄)」の数値が低ければ、鉄不足です。フェリチンは、通常の血液検査では調べないことが多く、見逃されがちです。

単に鉄をとれば、鉄欠乏が改善するわけではありません。糖質過多の生活で炎症体質の人は、鉄サプリや鉄剤を飲むのは逆効果。鉄が腸から十分に吸収されず、余った鉄が活性酸素の原因になったり、腸の有害菌のエサとなり、有害菌が増えて、腸に炎症が起きやすくなります。

対策として、酸味などで鉄の吸収を高めたり、鉄を補充できる鉄器や鉄球を調理に活用したりしましょう。

<鉄が不足すると>
・ミトコンドリアで効率よくエネルギーが作れなくなる
・イライラ、憂うつ、神経過敏などの精神症状が出やすくなる
・粘膜の代謝が悪くなって、胃腸障害や飲み込みにくさが出る

2【ビタミンB群】ココロの元気に“チームB”

「ビタミン」と聞くと「体によい」と感じますが、「ココロにもよい」ビタミンがあります。その代表がビタミンB群です。脳の神経伝達物質は、たんぱく質から作られますが、ビタミンB3(ナイアシン)・B6・葉酸などのB群がないと、セロトニンやドーパミンには変換されません。ミトコンドリアでエネルギーを作り出すときにも、材料の脂質やたんぱく質や糖質だけではダメ。ビタミンB群が働くからこそ、エネルギーに変化します。

ビタミンB群の不足がナイアシン欠乏を促進するなど、ビタミンB群は互いに補い合いながら働くので、できるだけB群全体をとるようにしましょう。

3【たんぱく質】ストレスが多い人は特に重要

筋肉や骨を作るだけではなく、酵素もホルモンもコレステロールも、全部たんぱく質でできています。ですから、たんぱく質が不足すると消化酵素も不足して消化吸収能力が落ち、ココロに必要な栄養素を取り込めません。

コレステロールが不足するとうつ状態が出たり、衝動的になったりします。ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質も、たんぱく質。筋肉量が低下すると、糖新生力が落ちるので、血糖調節障害も起きやすくなり、精神症状に影響が出ます。体とココロの土台部分は、たんぱく質でできているのです。たんぱく質は常にしっかり食べて補給することが必要です。

4【マグネシウム】酵素の活性化に最重要

マグネシウムは、消化酵素や代謝酵素など、体内の300種類以上の酵素の働きをサポートしています。ところが、ストレスが長引くとコルチゾールやアドレナリンといったホルモンが増え、マグネシウムを消費してしまいます。アルコールや糖質の過剰摂取、低血糖ストレスはマグネシウムを無駄に消費します。

マグネシウムが不足すると、エネルギー産生が低下したり、筋肉が収縮する症状(血管平滑筋が収縮すれば、高血圧)が見られたりします。また、学習能力や記憶力の低下、抑うつ気分も。50代以上に多く見られる高血圧や腰痛、肩こりなどは、マグネシウム不足が一因かもしれません。

5【ビタミンD】腸管などの粘膜を丈夫に

紫外線が皮膚に当たることで合成される栄養素がビタミンD。「冬季うつ」は、ビタミンD不足が一因です。不足は小腸粘膜の細胞間の結合を緩め、リーキーガット(※腸漏れ)の原因にもなります。

ビタミンDは、腸管や気道などの粘膜を丈夫にし、風邪やインフルエンザの予防に。また、遺伝子の働きを調節し、免疫向上、糖尿病予防、発がんの抑制につながります。ビタミンDといえば鮭。抗酸化力が強いアスタキサンチンも豊富です。

※リッキーガット(腸漏れ)
小腸粘膜の上皮細胞をつなぐ密着結合が弱く、隙間が広くなり、バリア機能が低下した状態の腸。有害な物質が体内に漏れ出して、炎症やアレルギーの原因に。

6【亜鉛】体内酵素を活性化!

マグネシウムの次に体内の酵素を活性化させるパワーをもつミネラル、それが亜鉛。「細胞分裂」に欠かせない修復ミネラルです。

ところで「味蕾」を知っていますか? 舌の表面の味を感じる部分です。ここは細胞の入れ替わりが激しいので、亜鉛不足で細胞分裂が低下すると味蕾が減り、味覚異常を引き起こします。また、記憶の中枢である海馬は、亜鉛濃度が高い器官です。そのため、認知症の初期には、味覚や嗅覚の障害を伴うことがあります。

亜鉛はストレスやアルコール、高血糖で不足しやすくなります。血糖を下げるインスリンの構造を維持するのにも亜鉛が必須で、血糖調節障害の影響が出てくる可能性があります。

7【食物繊維】腸内環境を整えてくれる

食物繊維は、「第6の栄養素」と呼ばれ、腸を健康に保つためにも重要な栄養素です。

食物繊維は善玉菌のエサになったり、腸内の有害物質を排出したり、腸のぜん動を促して便秘を解消したりする大事な存在です。糖の吸収を抑え、血糖の急上昇を緩和することによる精神安定作用も期待できます。

大腸のバリア機能の強化、糖尿病や肥満や発がんの予防にも効果的です。また、食欲を抑えたり満腹感を持続させたりするホルモンの分泌を促します。

監修者
栄養精神科医 奥平智之

おくだいら・ともゆき
日本栄養精神医学研究会会長・医療法人山口病院副院長(埼玉県)
栄養の問題に起因するうつ状態を「栄養型うつ」と命名し、「栄養精神医学」の大切さを啓発。血液検査結果の解析などを活用し、個々の体質や病態に合わせ、食事や栄養、漢方を取り入れた診療を実践している。漢方専門医、認知症専門医、特別支援学校 校医、日本うつ病学会評議員、日本スポーツ医学会 理事、日本未病学会 評議員など。著書に『マンガでわかる 食べてうつぬけ 鉄欠乏女子救出ガイド』(主婦の友社)ほか多数。

※この記事は「健康」2024年冬号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。


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