Vol.49 気象インテリジェンス市場と共に浮上する気象観測ドローンとは[Drone Design]

気温や湿度、風力、降水量といった気象データは、毎日のお天気予報以外にも農業から物流、観光、商品開発など幅広い分野で活用されている。さまざまなテクノロジーを使ってさまざまな気象データを提供し、分析まで行う気象インテリジェンスなるビジネスも登場している。

気象レーダーや気象衛星などを使って広範囲に行う気象観測とは異なり、気象インテリジェンスでは、観測範囲を絞り込んだピンポイントなデータも必要とされる。方法としては地上に観測機器を設置するといった方法もあるが、より精度の高い分析を行うために上空2kmの下層から中層の気象観測データなどを収集し、その観測ツールとしてドローンが使われることもある。

通常、下層から中層の気象データの収集はゴム気球を使うラジオゾンデや観測タワーが使用される。ドローンはそれらよりも汎用性が高く、扱いも容易なことから10年近く前から活用しようという動きがある。

気象観測専用ドローンの開発に関しては、2012年にスイスで設立された気象テクノロジー企業Meteomatics社が早くから取り組んでおり、5年ほど前には日本の企業にも導入されている。機体はクワッド型から始まって、今は重工感のあるヘクサ型の「Meteodrone MM-670」が登場している。下層から中層まで最大6kmの高さを雲や霧の中でも飛行でき、条件付きだが目視外(BVLOS)での夜間飛行も許可されている。

Meteomatics社の「Meteodrone MM-670」(提供:Meteomatics社)

用途としては収集したデータを元に急速な気象変化を予測したり、事故や災害現場で使用したりするほか、防災、航空管制のようなシビアな精度が求められる分野での利用などが考えられている。運用のしやすさから大型の建造物を建てる時の事前調査での利用はすでに増えており、中でも気象条件が重要になる洋上風力発電の建設での運用が向いているとされている。

また、気象庁でも定期的に行われているラジオゾンデ観測は、回収率が問題になっていることからGPS付きがメインになっている。だが、リサイクル面ではまだ課題が残ることから繰り返し使いやすくコントロールもしやすいドローンで代替しようという研究が以前から進められている。Meteomatics社ではそうしたニーズに応えるため、繰り返しドローンを活用できるドローンベースもセットで開発している。

定期的に気象観測するドローンベースは米国で利用されている(提供:Meteomatics社)

こうした気象観測用のドローンは国内でも以前は開発されていたが、既存のドローンにセンサーを搭載して観測する方向になりつつあるようだ。例えば、ムラタ計測機器サービスらが2020年に発表した「ドローンを活用した上層気象調査及び大気汚染調査の検証」によると、既存のドローンにセンサーを搭載し、5mと1000mの高さでGPSゾンデの観測結果を比較したところ、概ね同じような結果が出たとされている。また、「ACSL-PF2」を使用した上空気象観測のサービスも登場している。

ACSL-PF2(提供:ACSL社)

気象インテリジェンスは処理するデータが膨大になることもあり、IBMがEnvironmental IntelligenceとしてSaaSで提供するような特殊なビジネスだと思われていたが、データの収集が容易になり、分析するAIも進化していることから、今後はもっと身近なサービスとして活用されるだろう。

気候変動対策としてCO2削減が大きな課題になっていることから、今後はそうした調査でもドローンを利用するアイデアがある。そうした動きを見越してか、ロッキード・マーティン・ベンチャーズがMeteomatics社に戦略的資金調達ラウンドを完了したとリリースしており、新たに専用ドローンが開発される可能性もある。

いずれにしてもドローンの活用でも気象データは重要になることから、気象インテリジェンスの動きには注目すべきだと言えそうだ。

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