「勝ってから愚痴りたい(笑)」好守連発のなでしこGK山下杏也加の貢献は誰もが認めるところ。再開されるWEリーグでの活躍にも期待だ

ホーム&アウェー方式で行なわれたパリ五輪のアジア最終予選。なでしこジャパンの相手は北朝鮮で、中立地サウジアラビアでの第1戦は0-0、国立競技場で迎えた第2戦は2-1で勝利を収め、五輪出場を決めた。

この2試合で、日本の守護神・山下杏也加は何度もビッグセーブを見せた。自らの働きに、いつも以上の充足感があったのだろう。2戦を戦い終えての感想を問いかけると、まず「近い国ですけれども、こんなに移動距離や時差があるとは思わなかった」とジョークを交えて、切り出した。

第1戦の開催地は、試合まで1週間を切っても決まらなかったが、「勝ってから、愚痴りたい(笑)」と、目の前の試合とパリ五輪へのチケットを掴み取ることだけに集中した。

「相手のカウンター、最後のパワープレーに対して、予測というか、頭では分かっていたんですけれども、押し込まれすぎて、頭がパンクしてるというか、周りが見えていないことも多かったので...。まあ、2点取れたのは良かったのかなと思います」

サウジでの試合は、北朝鮮に対して、なかなか日本の良さが出せなかった。シュート、決定機の数とも相手に上回られ、山下の好守がなければという苦戦に陥った。しかし、そこから対策を話し合った日本は、長い移動時間も含んでの中3日という時間がないなかで、しっかりと改善した。

「相手のフォワードが(日本の)アンカーの横のところに落ちてきて、それをディフェンスが取れない状況が続いていて、サイドバックも数的不利で対応している。それでボールを奪うことができなかったというのが1戦目なんですけれども、(2戦目は最終ラインを)3枚にすることで落ちた選手に対して強くいける。それがすごくよく見られたのと、それと前線が『行ける!』と気づいたからこそ、プレッシャーに行ってくれて」

第2戦では、北朝鮮をはめ込んだ状態で、相手が苦し紛れに蹴ったボールも、高橋はな、熊谷紗希、南萌華の3バックが跳ね返し、セカンドボールを回収。良い守備から、良い攻撃へとつなげることができた。そして、数少ないピンチにも山下が立ちふさがった。

前半終了間際、チェ・クムオクのトリッキーなシュートを防いだ場面は、良い態勢で構えていたからこそ、ボールの出所がわからないなかでも、右手を伸ばしてゴールに入ろうとするボールをかき出した。

【動画】なでしこ山下のスーパーセーブ!
あの時間帯に追いつかれていれば、まだ、どう転んだか分からない。2-0となった後の失点を、本人は「自分の判断ミス、チームに申し訳ない」と口にしたが、VARがなく、不確定要素も多い、守る側に辛い状況で見せた活躍は、誰もが認めるところだ。

所属クラブに戻れば、すぐ週末からWEリーグが再開する。現在、山下の所属する INAC神戸レオネッサは勝点17の首位。再開初戦で対戦する三菱重工浦和レッズレディースは、第2戦で先制点を挙げた高橋はならを擁し、首位のI神戸を勝点1差で追走する。

先月の皇后杯全日本女子サッカー選手権決勝でも、PK戦までもつれる死闘を演じた最大のライバルだ。

そのWEリーグの天王山とも言える試合に向けて「(ジョルディ・フェロン)監督も、考慮してくれている。浦和戦に向けて、しっかり調整します」とのこと。頼もしい代表のチームメイトと、今度は敵味方に分かれて、また熱い戦いを繰り広げてくれるはずだ。

取材・文●西森彰(フリーライター)

© 日本スポーツ企画出版社