ENHYPEN、ワールドツアーアンコール公演『FATE PLUS』にかけた7人の思い 詳細レポートで紐解く

ENHYPENが2月23日から25日までの3日間、『ENHYPEN WORLD TOUR ‘FATE PLUS’ IN SEOUL』を韓国・ソウルのKSPO DOMEにて開催した。

HYBE LABELSの傘下のレーベルであるBELIFT LABに所属するENHYPENは、超大型プロジェクト『I-LAND』から2020年に誕生した7人組グローバルグループ。2023年7月から10月にかけて3カ国9都市を巡るワールドツアー『ENHYPEN WORLD TOUR ‘FATE’』を開催し、日本の東京ドームや京セラドーム、初の単独スタジアム公演となるアメリカ・ロサンゼルスをはじめとした大規模な会場を次々にまわると、今年1月から2月にかけて、4都市7公演のアジアツアーを開催。全13都市21公演で32万7000人を動員した。そのワールドツアーのアンコールライブとなる今回の『FATE PLUS』ソウル公演もあっという間に完売し、4月からはアメリカ5都市でもアンコール公演を予定している。本稿では、『FATE PLUS』ソウル公演から、初日の模様をレポートする。

部分日食だろうか。モニター上に、月に隠れていた太陽がその姿を表した瞬間現れたのは赤、青、黄色で彩られた、天井に届くほど大きなステンドグラスだ。映像の視点が下に向くと、ご馳走を前に座るメンバー7人の姿があらわに。金の刺繍が施された白い上品な衣装を身にまとった彼らは、食事をすることなく、感情の読めない表情で、剣や砂時計、ストーンがあしらわれた仮面などに触れたり、眺めたりしている。

突然、食卓に置かれた盃が倒れてワインが溢れ、場面は一気にダークな世界へ。彼らが手に持っていた花や剣、果実からは、血のようにも受け取れる赤い液体が滴り、気づけば彼ら自身の口元や首元、手までもが赤く染まっている。7人が盃を高く掲げて真っ赤な花びらが大量に舞い落ち、“FATE+”の赤いロゴが画面に現れたところで、会場は暗転した。

ステージ中央に置かれた多角形のステージ前が燃え上がり、JAKEが火のついた真っ赤な封筒を投げる。JAYに続いて登場したNI-KIが一瞬眩しそうに目を瞑り、指を鳴らすと、重厚な扉が開いた先に現れたのは夜の森のような暗闇の世界だ。花や懐中時計、仮面など、各々が映像内で手にしていたアイテムをかざしながら登場するなか、HEESEUNGが手をかざしたSUNGHOONの仮面に火がつき、ステージが一気に赤く染まる。階段を降りたその勢いのままに、7人は「Drunk-Dazed」で公演の火蓋を切って落とした。

十字架のように倒れ込むJUNGWONを筆頭に展開されるダンスブレイクでは、NI-KIがヴァンパイアのようにSUNGHOONの首元に噛みつくような仕草を見せる。ギターがかき鳴らされる「Blockbuster」では、HEESEUNGとNI-KIの睨み合いやJAYの「Are you ready!?」の声が、序盤から高まる熱気をさらに加速させていく。

「皆さん、会いたかったです! お久しぶりです、ENHYPENです!」と、ソウルでの再会を喜んだ7人。「ENHYPENに会いたかったぶんだけ叫べー!」というJUNGWONの声には、会場から大きな歓声が送られた。また、この日体調不良により一部出演を見合わせる形で参加したJAYについて、リーダーのJUNGWONは、「いつもは明るいJAYさんですが、今日はコンディションがあまりよくないんです。だけど、ENGENE(ファンの呼称)の皆さんに会いたくて、こうしてステージに出てきてくれました」と紹介。JAYは、「一層アップグレードされたコンサートになっているので、成長した僕たちの姿を思う存分に楽しめると思います。たくさん期待していてください」と意気込んだ。また、SUNGHOONは、「公演中にENGENEの近くに行く時間があると思います」と、ファンと近距離で交流できることを匂わせる。NI-KIも「テンションが上がってきたら、周りの顔色を窺わずに叫んでいいですよ!」と伝え、この時を待ち望んでいたENGENEの心にさらに火を灯したようだった。

大きなキューブを背にして始まったのは、「Let Me In (20 CUBE)」。立て続けに披露した「Flicker」では、ヴァンパイアのような瞳で前を見つめるSUNOOの表情も印象的だ。それまでの爽やかな青色とは対照的に、赤い背景に塗り替えられた「FEVER」、「Still Monster」では、次第に燃え盛る巨大な心臓のような熱いステージが展開。このアンコール公演に込められたメンバーの想いが、汗を滲ませながら一挙一動を丁寧に踊り込むパフォーマンスから伝わってくる。一方、緑のレーザーを用い、白い衣装を身にまとって空気をガラリと変えた「Future Perfect (Pass the MIC)」では、ENGENEの掛け声も白熱。盛り上がりをそのままに、容赦なく流れ始める「Blessed-Cursed」のロックサウンドが、まさに前へ進もうとするENHYPENの強い意志を感じさせるようだった。

続くVCRで、不気味な庭園に足を踏み入れた7人。その警戒するような表情は、讃美歌のような音楽とともに差し込んだ光に導かれるようにして、いつしか和らいでいた。映像が明けると、「Attention!」と会場に響き渡るノリのいいアナウンスで「Make some noise!」と元気よくカジュアルな装いでステージに再登場したメンバー。「Attention, please!」でギターを容赦なく放り投げるJAYのワイルドな姿は、ロックスターさながらだ。「ParadoXXX Invasion」では耳慣れたメロディに自然と身体が揺れ、「ENGENE 사랑해(愛してる)!」と叫んだSUNOOの笑顔が弾ける。MVに登場するラグビーボールを繋ぎながら歌う「Tamed-Dashed」のサビでは、HEESEUNGがニヤリと笑いながらボールに口付けして客席へ蹴り上げ、ENGENEからも思わず歓声が上がる。

MCでは、JAKEの頬に片割れハートを作り、今度はJAKEに両側からハートで挟まれ、頬を掴むように触られる“弟”JUNGWONの姿が。最後にはふたりで大きなハートを作ってみせると、悲鳴にも似た声が会場に響いた。また、ENHYPENのオフィシャルペンライト、通称“ENGENE棒”を手にしたメンバーたちは、1階席をJAKEとSUNGHOONの緑チームが、2階席をJAYとSUNOOの青チームが、3階をJUNGWON、HEESEUNG、NI-KIの赤チームが担当し、フロアごとにコール&レスポンスを行い、ファンと交流する。

少人数に分かれてパフォーマンスするステージの準備時間には、貴重なカバーを聴くことができた。JUNGWON、HEESEUNG、NI-KIのMCでは、HEESEUNGが「(JUNGWONが)今日のために夜遅くまで練習していたんです」と期待を込め、「It’s JUNGWON Time!」と紹介すると、JUNGWONは自身の姉がファンだというEXOの「Sing For You」にENGENEへの想いを乗せて歌唱。一方、JAY、JAKE、SUNOOに「ソウルの『FATE PLUS』で見せる特別なステージ」と紹介されたSUNGHOONは、ジャスティン・ビーバーの「Boyfriend」をカバーして美しい歌声を響かせた。SUNGHOONはこの曲を選んだ理由について、「僕の声と合っていて、(歌詞も)ENGENEに伝えたいことなので選びました」と真っすぐな瞳で説明。SUNGHOON自身も普段からジャスティン・ビーバーをよく聴いており、ENHYPENが誕生した『I-LAND』でも「いちばん自信がある歌」としてこの曲を挙げていただけあって、貴重なカバーを目撃した会場は喜びを爆発させていた。

花々のなかに腰掛け、JAY、JAKE、SUNGHOON、SUNOOの4人バージョンで披露した「TFW (That Feeling When)」では、JAYの弾くギターに乗せて音に身体を揺らし、ENGENEと視線を交わしながら声のバトンを繋いでいく。JUNGWON、HEESEUNG、NI-KIの3人から始まったバラード曲「Just A Little Bit」では、HEESEUNGのピアノ伴奏がJUNGWONとNI-KIの歌声を優しく包み込み、中盤からステージに合流した4人を温かく迎え入れた。

弾むサウンドが特徴的なポップテイストの「10 Months」、「Polaroid Love」は、歌声とともにメンバーの素の表情も楽しむことができる時間だ。特に「Polaroid Love」では、トロッコに乗ってENGENEのすぐ近くまでやってきて、物理的な距離までも埋めていく。楽曲が終わってもメンバーはしばらくトロッコに乗り、時間が許す限り目と目を合わせて、舞台袖に入るギリギリまでファンとの交流を堪能していた。ENHYPENからもたらされる惜しみない愛情は、きっとENGENEの心にかけがえのない想い出を刻んだと思う。

ソウル公演としては初披露となった『ポケットモンスター』の音楽プロジェクト「Pokemon Music Collective」による「One and Only」では、『FATE』ツアーの日本公演でもステージで登場し、コラボレーションしたピカチュウたちがソウルに上陸。ピカチュウと手を繋いで一緒に踊るJUNGWONや、顔を覗き込むようにしてその踊る姿を見つめながら歌うHEESEUNG、踊りながらピカチュウの耳に優しいパンチを加えたり、去り際に飛び跳ねながら耳を触ってかわいがったりするJAKEなど、思い思いの方法でキュートな友達と戯れる様子が微笑ましい。

間髪を入れずギターのスクラッチ音が鳴り始まったのは、オルタナティブロック「SHOUT OUT」。文字通り、自分らしさを叫ぶような爽快なサウンドで、ロックバンドのサウンドに乗せた豊かな歌声が7色のマイクを通して響き渡ってゆく。

お待ちかねのダンスバトルタイムでは、ボトルスピンで先攻のJUNGWON、HEESEUNG、NI-KIのチームが「BILLY POCO」を、JAY、JAKE、SUNGHOON、SUNOOの4人が『Baby Shark’s Big Movie』のOST「Keep Swimmin' Through」を披露。引き分けのようにも思われたバトルは、ソロダンスでさらに白熱。各チームを代表して、SUNOOとJUNGWONが照れた表情を見せながらも、メンバーの無茶振りに全力で応えて踊る。

楽しく遊び終え、瞬時に切り替えたステージモードで「Go Big or Go Home」を披露したあとは、再びダークテイストなENHYPENの世界観へと観客を引き込む。冒頭のVCRで登場したステンドグラスの部屋には、腐敗した食べ物や人骨のようなものが確認でき、映像でも背筋を凍らせるほどに不気味な光景が広がっていた。目を閉じて苦しげに顔を歪める彼らは何と闘っているのだろうか。その瞳からは光が失われ、一筋の涙がこぼれ落ちた。

幕が開き、NI-KIの人間離れしたソロダンスが誘うのは、ひとりだけの踊りに酔って堕ちていくさまを描いた「Chaconne」。まるで血に染まったかのようにも見える赤黒い衣装に身を包み、「死者を復活させるためのダンス曲」という意味を持つバロック時代の音楽をタイトルに冠したこの曲で、彼らの耽美的な世界を表現していく。続く「Bills」、「CRIMINAL LOVE」では、城の廊下のような場所でシャンデリアや大きな月をバックに舞い踊る7人。バイオリンを筆頭にストリングスの緊張感ある音色が「One In A Billion」のはじまりを宣言すると、リズミカルなロックとHIPHOPのビートに乗せて、燃え上がる炎にも劣らない熱量で魅了した。

「スタンドアップ! 立ってください!」と、観客とともに気合いを入れて臨んだラストスパートの先陣を切ったのは、ストリングスバージョンで魅せる「Bite Me」。さらに、ツアーを通じて本公演がついに披露の場となった待望の「Fate」では、そのイントロが鳴った瞬間から会場が歓声の嵐に包まれる。イントロのJUNGWONとJAYの掛け合いに加え、ジャケットを肩から落としたシルエットすらものにしてしまうNI-KIのエンターテイナー性にはお手上げだ。熱気が冷めやらぬまま、昨年11月リリースのアルバム『ORANGE BLOOD』収録曲「Sweet Venom」が呼吸も忘れてしまうような怒涛のパフォーマンスのトリを飾り、幕が閉じた。

最後の鍵となるVCRでは、手の甲に浮かぶ紋章のような模様を光らせ、あたりを見回していた7人が、一気に明るくなった日が照らす外の世界へと笑顔で駆け出していく。その指や首に残る血や噛まれたような傷は、彼らが何者かであることの証だろうか――。

アンコールでは、花々に囲まれた宙に浮かぶステージから、ENGENEを見つめるように「Orange Flower (You Complete Me)」を披露。先ほどのパートとは打って変わって穏やかな表情でやさしい歌声を奏で、最後には観客とアカペラで一緒に歌って心と心を繋いだ。

MCでは、7人それぞれの今の率直な想いが語られた。NI-KIは、「7月のソウル公演を思い出します。あの時は、まだ身体に馴染んでいない状態で見慣れない姿をお見せして、少し物足りなさが残っていた気がします」と『FATE』ツアーを振り返ったうえで、「今回、数曲追加されて新しい姿をお見せできてよかったです。ENGENEの皆さんはどうでしたか? 僕は個人的に『Fate』がとてもよかったです」と話すと、観客からは同意のようにして歓声が上がる。ツアーのタイトルにも掲げられていながら、これまでの公演では披露されることがなく、SNSをはじめ、パフォーマンスしないことに疑問も寄せられていたという「Fate」。NI-KIはその反応を見て、「(披露した時には)本当に喜んでくれそうだな」と思いながら練習を重ねたといい、実際の会場の盛り上がりにも満足げな表情を見せていた。

ソウルでのアンコールコンサートが念願だったと語るSUNOOは、公演中も終始瞳を輝かせていたメンバーのひとりだ。「Orange Flower」を歌いながら、頑張って準備したという今回のアンコール公演やずっと恋しかったというENGENEに想いを馳せ、少々涙腺を刺激されたというが、「『Orange Flower』は明るい雰囲気でお見せすることができて、とてもよかったです」と嬉しそうに微笑んでいた。

「たくさんコンサートをしたと思っていたのですが、またソウルに戻ってきたら、正直緊張しました」と告白したHEESEUNGは、準備してきたたものをしっかりと見せることができ、無事に肩の荷を下ろすことができたそう。また、KSPO DOMEという会場で今回3公演も開催できることに言及し、「こうして幸せな経験をさせてくださるENGENEの皆さんに、いつも感謝しています」「継続して努力して、ENGENEの皆さんにもっと大きな感動を与えられる歌手になりたいと思います」と伝えていた。

JUNGWONは、「『MANIFESTO』(2022年開催『ENHYPEN WORLD TOUR 'MANIFESTO'』)ではアンコール公演ができなかったので、残念な気持ちがあったんです」と、前回のワールドツアーを回想。「今回の『FATE』ではアンコール公演を開催できたうえに、3公演ともチケットが完売して、その記事を家族と共有するほど嬉しかったです」「本当に感謝の気持ちがいちばん大きいです」と伝えた。公演時間には外気温が5度を下回るなか足を運んでくれたファンに「今日は本当に寒かったと思います。気をつけてお帰りくださいね」と気遣う姿も、彼らしい愛の示し方だ。

JAKEは、「『FATE PLUS』を準備しながら、『FATE』と似ている点も多いですが、どうしたらもっと面白く新鮮に感じられるか、とても悩みました。歌や振り付けを追加したり、ディテールを工夫したりしてたくさん努力をしたのですが、どうでしたか?」と、アンコール公演に込めた想いを語る。『FATE』ツアーでもこれまで世界中を巡り、各国で応援している数多くのファンの姿を直接目に焼きつけてきたが、そのようにステージやMCでのコメントを重ねるなかで自身の成長を実感したようで、「もっと一生懸命に努力するJAKEになります!」と頼もしく宣言していた。

SUNGHOONは、約半年前のソウル公演から再び戻ってきたアンコール公演を迎え、「内容があまり変わっておらず、ENGENEががっかりしたらどうしようかとも心配しましたが、まったくその必要はありませんでした」「僕はもっとENGENEの皆さんの気持ちを知ろうと努力しますし、最近はENGENEの立場で考えることがとても多くなってきたようです」とコメント。そのうえで、「ENGENEは、ただ僕たちを見ているだけでも本当に思い出になるんだなと思いました」とファン心理の真髄に気づくことができるのは、いつもENGENEのことを深く考え、見つめている彼だからこそ。SUNGHOONは続けて、「目に見えない僕たちの運命の糸が固く、絶対に解けない結び目になるよう、もっと努力するENHYPENになります」と想いの丈を言葉で伝えてくれた。

これを受け、リーダーのJUNGWONも、「どんな運命が僕たちを導いたとしても、ENGENEの横にはENHYPENが、ENHYPENの横にはENGENEがいるという事実は変わりません」「ENGENEの信頼に応えられるような素敵なアーティストになります!」と、グループとして一段と成長していく意思を表明した。

最後には「Karma」を歌いながら、時折客席にマイクを向けて心を通わせ、待ち望んだソウルでのアンコール公演を噛み締めたENHYPEN。配信を通じて全世界から見守るENGENEに向けても、自分たちの知り得るすべての言語で「ありがとう」「愛してる」の言葉を届けるのも彼ららしい。すでに世界中にファンダムを広げ、グループとしても確実に進化を遂げつつ、現状に妥協することなく常に高みを目指す彼らの謙虚な姿は、誰もが真似できるものではない。4月からはアメリカでのアンコールツアーも控えたENHYPENの今年の活躍を、ますます楽しみにしていたい。

(文=風間珠妃)

© 株式会社blueprint