【日曜特番・北陸新幹線敦賀延伸あと13日】「すっかり都会になった」 福井出身の記者、福井駅ぶらり

駅西口の恐竜オブジェは撮影スポットとして定着した

  ●恐竜推しと高層ビル 石川と相乗効果を

 北陸新幹線敦賀延伸を16日に控え、にわかに注目が集まる福井県。装いを一新した福井駅に降り立ち、目の前にそびえ立つ高層ビルを見上げると、「すっかり都会になったなぁ」と、景気付く故郷に期待感が込み上げる。新幹線開業に沸き立つ駅周辺を福井市出身の私、文化部・岩上拓磨がつぶさに取材した。

 2月29日、金沢駅から特急「サンダーバード」で福井駅へ向かう。所要時間は約40分。これでも十分速いが、新幹線なら半分に短縮される。北陸三県がぐっと近くなると実感する。

 構内に出て東口へ目をやる。「こんなに広かったっけ?」。北陸新幹線の乗り場となる東口はガラス張りの明るい空間で、内装には県産材や越前和紙で落ち着いた雰囲気が漂う。ウオーキング仲間と見学に訪れた塩見瞳さん(79)=福井市勝見3丁目=は「木目調で柔らかい感じ。新しくなり、わくわく感がある」と声を弾ませた。

 西口を出ると、高さ120メートルの高層ビルが目に飛び込んできた。再開発の進む新街区「FUKUMACHI BLOCK(ふくまちブロック)」の複合施設だ。新幹線延伸と同時に、入居するホテルや商業施設が先行開業する。隣にある複合施設「ハピリン」の高さ90メートルを超え、130メートルのホテル日航金沢に迫る。

 恐竜も至る所で見掛けた。西口には恐竜オブジェや壁画、東口に併設する福井市観光交流センターの屋上には恐竜モニュメントが9体。高志高1年の錦ひかりさん(16)は「福井県といえば恐竜みたいな、福井を象徴するイメージが一つぐらいあった方がいい」と「恐竜推し」を好意的に受け止める。

 福井市民の中には小浜など福井県嶺南地方より、石川県の方を身近に感じる人も少なくない。福井市文京2丁目の福島順子さん(73)は「金沢は駅から何分歩いても街がにぎやか。新幹線が開業したら、また行きたい」と笑顔を見せる。

  ●マラソン参加者の15%

 石川との近さは、3月31日に初めて開催される「ふくい桜マラソン」にも表れている。実行委員会事務局によると、参加者1万5341人のうち、石川県からは約2400人で15%を占める。古市仁希事務局次長は「ふくい桜マラソンも継続開催してランナーを増やし、そうした人たちに金沢マラソンにも参加してもらう。相乗効果で盛り上げたい」と意気込む。

 待望の新幹線がやって来る福井駅だが、「駅周辺の名所といえば?」と聞くと、考え込む福井市民は多い。東尋坊に永平寺、県立恐竜博物館、一乗谷朝倉氏遺跡など主要観光地がどれも福井駅から遠いのだ。「福井駅で降りても見る場所がない」(福井市内の70代男性)との声も聞かれる。

 しかし、あえて言おう。福井駅周辺は魅力の宝庫であると。金沢の繁華街と同じ名前の「片町」にある「ヨーロッパ軒総本店」のソースカツ丼は、サクサクのカツに甘めのソースが染みこんで絶品である。向かいには、福井発祥の焼き鳥店「秋吉」の1号店がある。

 「新栄商店街」は作家のギャラリーやコーヒー専門店、自衛隊グッズ専門店など個性的な店が並ぶ。足羽(あすわ)川の桜並木は家族と出掛けた定番の花見スポットで、約600本の桜は壮観だ。駅から徒歩15分の国名勝「養浩館(ようこうかん)庭園」も知る人ぞ知る名園である。

 さらに今、福井ではNHK大河ドラマ「光る君へ」のラッピング路面電車が走っている。主人公の紫式部が一時期、越前国府(現・越前市)に住んだ縁からだ。鉄道マニアの先輩が「あれは必見」と強調していたので期待していると、車両側面に主演の吉高由里子さんの特大写真がデザインされていてインパクト十分。「新幹線も開業するし、大河ドラマもやっている。今がチャンスだ!」との意気込みが伝わってくる。

  ●「福いいネ!」が合言葉

 福井の魅力をさらに伝えようと、福井市新幹線プロモーション課は「福いいネ!」を合言葉にPRを展開している。サブテーマは「いまの時代、自分からアピールしなきゃ!」。そう、新幹線をただ待っているだけでは何も始まらないのだ。この姿勢が大事なのは、同じく北陸新幹線を迎える南加賀も同じである。

 取材が終わり、気付けば夜。楽しみにしていた福井駅東口高架下の「ふくい屋台村」はどの店も予約いっぱいだ。駅前の「秋吉」で晩酌をたしなみ、ふるさと福井の発展を願って、一人、静かにカンパイするのであった。

  ●現状と未来、考える好機に 青森大教授(新幹線学)・櫛引素夫氏

 新幹線が地域にもたらす変化については、観光特需的な一過性の「開業効果」と、それだけにとどまらない「新幹線効果」を分けて考える必要がある。

 まず今回の敦賀延伸は、2015年の金沢開業時と日本の状況が全く違っていると自覚しなければならない。人口減少が本格化し、労働力不足が深刻さを増す中、持続可能な地域を次世代につなげるため新幹線をどう生かすか。そうした議論なしに「第2の開業」を歓迎しているのであれば、危うい部分がある。

 例えば、若者の地元定着に関わる取り組みについていえば、金沢開業後に金大と信州大がタッグを組み、留学生を国内に就職させるプログラムで成果を上げている。これも新幹線効果だ。

 また、金沢まで新幹線で通学した新潟県糸魚川市の大学生が卒業後に地元の糸魚川で就職した例もある。若者の流出を食い止めるため、当時、糸魚川市が通学費を全額助成した結果だ。新幹線によって北陸の大学生の動向は劇的に変わり始めている。

 北陸三県が1時間圏内で結ばれることで働き方、暮らし方にも変化が予想される。福井市内で勤務する友人の国家公務員は、福井で広々とした一軒家を購入して居を定めた。北陸エリアのどこかに異動になっても新幹線で通勤できる。新幹線開業を機に、転勤族が地域との新たな関わり方を探るような動きも出てくるだろう。

 新幹線が医療にもたらす影響を調べたところ、北陸新幹線を使って金沢から長野県飯山市まで通勤する医師がおり、非常勤で行き来する医師も増えているようだ。金沢は地方としては圧倒的に医師数が多く、金沢と新幹線で結ばれることで医師不足の地域が救われる可能性がある。敦賀延伸後、金沢を中心とした医師の動きがさらに広がるか注目したい。

 福井県では「100年に一度のチャンス」が合言葉になっているが、では何のチャンスなのか。単なる誘客のチャンスではない。地域の現状と未来を突き詰めて考えるチャンスだ。

  ●地域をどう「つくり直す」か

 元日に起きた能登半島地震は、苦難の人口減少時代を象徴するような災害だった。復興に際し、地域をどう持続可能な形に「つくり直す」かがキーワードになる。能登が、石川が、北陸がそれぞれに持続可能な幸せを模索し、地方のあり方をバージョンアップするためのスタートラインとして、敦賀開業を見つめてほしい。

 ★くしびき・もとお 1962年、青森市生まれ。東奥日報社で記者として勤務し、2016年から青森大社会学部教授。四半世紀にわたり新幹線と地域振興について研究し、「新幹線学」を提唱する。

ハピリン前を通るNHK大河ドラマ「光る君へ」のラッピング電車。主演の吉高由里子さんの写真が大きい=写真は全て福井市内
ハピリンには31日に開催する「ふくい桜マラソン」をPRするパネルが掲示されていた
大勢の試乗会参加者でにぎわう新幹線ホーム=2月3日、敦賀駅
櫛引素夫氏

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