もうすぐ桃の節句・ひな祭り。特集は、時代と共に移り変わるひな人形の最新事情です。既に飾っている家庭も多いかもしれませんが、このひな人形、近年、特にある変化が進んでいると言います。
女の子の健やかな成長を願うひな祭り。平安時代から続くとされる伝統行事です。
童謡の歌詞にあるようなひな飾りは明治以降、広まったとされ、昭和の高度成長期には豪華な七段飾りが人気となりました。
母・東沢奈央さん(32):
「ほら、見て、宇季さん」
時は進んで、今は令和。
長野市の東沢さんの家では長女・宇季ちゃんの初節句に購入したひな人形が飾ってありました。いわゆる「平飾り」です。
母・東沢奈央さん:
「飾る場所も限られているので、コンパクトなものがいいと思ったのと、お人形さんの顔がかわいらしかったり、衣装も、淡い色がとても気に入ったので、こちらのひな人形にしました」
宇季ちゃんも気に入っている様子です。
一方、母・奈央さんが子どもの頃、飾ってもらったのは七段飾り。当時の人形も別の場所に飾っています。
母・東沢奈央さん:
「(昔のは)色づかいも赤とか原色が多かったり、表情もキリっと目が切れ長で顔も違うなと思う。今はすごくふんわりした雰囲気のお人形になっていると思う。色も明るい感じで…」
好みやニーズに合わせて変化するひな人形。
県内に5店舗、展開する「人形工房サンキュー」で聞くと、令和に入ってから顕著になった変化があると言います。
人形工房サンキュー佐久総本店・柏木長次店長:
「すごく『イケメン』でしょう。今どきのおひなさまです」
優しい目元に、シュっと通った鼻。幾分、小顔に見えます。
令和に入ってから人気のタイプだそうです。
人形工房サンキュー佐久総本店・柏木長次店長:
「鼻が高くて、いわゆる八頭身であるという顔が人気になっています。(他にも)サイズが小さくなった、色がカラフルになった。台とか屏風、着てる衣装、顔なんかも、今、本当に変わってきています」
ひな人形と言えばふっくらした顔立ちに、細い切れ長の目、黒や赤の豪華な衣装、といった印象を持つ人が多いかもしれませんが。
今は小顔が主流で着物は淡い色が好まれるそうです。サイズも、三段飾りや男雛と女雛だけの平飾りが売れ筋です。
これには「住まいの変化」や「核家族化・少子化」が影響していると言います。
人形工房サンキュー佐久総本店・柏木長次店長:
「昔は親御さんたちとか同居していて、広い住まいの中におひなさまを飾るというケースがあった。だから七段飾りも需要としてありました。最近は若い人たちの住まいは(せまく)『ここに飾ろう』と寸法を決めて買いに来る人も多い。畳の部屋がないお宅も増えてきた。それに伴って、われわれの業界も畳の部屋じゃなくてフローリングの部屋にも合うようなものを提供しようと、作り始めた」
「お子さんが少ない分だけターゲットが絞られるじゃないですか、そうすると少しでも若い人に気に入ってもらえるものを作らなきゃいけない、それもひとつの裏事情かと思う」
最近、購入した人に何を基準で選んだのか聞いてみました。
平飾りを購入:
「あまり場所を取らないような大きすぎないものを選びました。片付けるのも大変なので、小さく収納できるようなものにしました」
平飾りを購入:
「お顔結構スマートだったり、細身な顔、あと着ているものがかわいくて、柄とか。サイズとね、家に飾れるくらいのサイズで…」
二段飾りを購入:
「色合いが珍しい紫色のやつで、他にない色だったので、気に入って」
子ども:
「おひなさまの、王冠みたいに乗ってるのが、かわいくて好き」
変化するひな飾り。
柏木店長は寂しさも感じています。
人形工房サンキュー佐久総本店・柏木長次店長:
「五人囃子がいない、随身がいない、仕丁さんがいない…」
七段飾りは、童謡にも登場する「三人官女」や「五人囃子」など、15人で構成されるのが一般的。
さらに嫁入り道具も。
省略すると、従来の意味合いが薄れてしまうと言います。
人形工房サンキュー佐久総本店・柏木長次店長:
「おひなさまってどういう場面かというと『結婚式』なわけですよ。初節句を迎えるお子さんの行く末の姿…幸せな人生を歩みますようにと。ひとつの人生ドラマが15人の中にたくさん入ってるんです。だから歌(童謡の歌詞)を変えないといけないと思う」
冒頭で紹介した長野市の東沢家。
母・奈央さんは両親に祝ってもらったひな祭りのことをよく覚えています。
母・東沢奈央さん:
「ひなあられを食べたりして、両親と姉もいるんですけど、一緒にひな人形を囲んでた記憶があります」
今度は自分が宇季ちゃんに…サイズや表情は違っても娘の健やかな成長を願う気持ちは変わりません。
母・東沢奈央さん:
「私もひな人形、何段もあるのを用意してもらってお祝いしてもらっていたので。毎年、人形を飾って、ひな祭りお祝いして、すくすく大きくなっていってくれれば」
柏木店長も…
人形工房サンキュー佐久総本店・柏木長次店長:
「文化というのは時代と共に変わってきているじゃないですか。この業界にいる以上は形を変えても残していく、それが最大の使命だと思う。特に節句は『絆』というのがひとつのテーマとしてある。おじいちゃんおばあちゃんの孫に対する思い、親御さんの子どもに対する思いとか、“日本の心”としてそういうものを受け継いで残してほしい」