震災の記憶、山形に伝える 宮城の若者グループ、紙芝居披露

紙芝居などを通し、震災の記憶や命の大切さを伝えた「きずなFプロジェクト」のメンバー=山形市立図書館

 「母と祖母が亡くなった現実を初めは受け入れられなかった」―。東日本大震災で被災した宮城県の若者たちでつくる「きずなFプロジェクト」のメンバーが3日、山形市立図書館で開かれた市民講座で講師を務め、自作紙芝居を本県で初めて披露した。震災での経験と思いを紙芝居で表現した6人は、「大切な家族を地震で失ってからでは遅い。教訓を改めて自分ごととして感じてほしい」。心からの訴えに、参加者は聞き入った。

 プロジェクトは2016年、七ケ浜町向洋(こうよう)中の1年生10人ほどで始めた。取り組むのは自分たちや他の被災者の経験を伝える語り部活動。今は大学生や高校生となった同中卒業生ら16~21歳の約30人が所属する。

 紙芝居は19年6月に完成した。津波で家族を亡くしたメンバーの経験を基にした。「1年間ぐらいは悲しくて夜によく泣いた」「記憶を思い出すため周囲に気持ちを打ち明けることができなかった」。メンバーたちはこの日、一言一句かみしめるように読み上げた。

 本県で紙芝居をした理由にはメンバーが、県民の東日本大震災の記憶が薄れ、危機感も足りないと感じたことがある。初代メンバーで、紙芝居作成を発案した東北芸術工科大3年山本萌乃(やまもともえの)さん(21)はそう思った一人。「地震はいつどこで起こるか分からない。山形の人も自分ごととして受け止めてほしい」と強調した。すぐに避難できるよう、心構えと非常用持ち出し袋の常備の必要性を訴えた。

 この日、会場に集まったのは親子連れや高齢者など約30人。紙芝居の絵を食い入るように見つめ、語りに耳を傾けた。母親と訪れた小学5年の児童は「経験を大勢の前で話すのはとても勇気がいること」と、彼らから感じた思いを語った。

 向洋中の教員時代にプロジェクトの立ち上げに協力し、現在は顧問を務める瀬成田実(せなりたまこと)さん(66)は「能登半島地震に見舞われ防災意識は全国的に高まっている」と指摘し「今だからこそ東日本大震災の記憶を伝える意義がある」。若者の切実な思いが、山形県民に伝わるよう願った。

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