焦点:ヘイリー氏支持者の熱気衰えず、勝利絶望でも「反トランプ」

Gram Slattery

[ローリー(米ノースカロライナ州) 4日 ロイター] - 米大統領選の共和党候補指名争いでトランプ前大統領に対して圧倒的不利な立場に追い込まれたヘイリー元国連大使だが、ここにきて選挙イベントに集まる人びとの数が過去最大に膨らんでいる。支持者らは誰もヘイリー氏が勝ち抜けると思っていないのに、熱気は衰えるどころかむしろ以前より高まっている。

ヘイリー氏が1日、ノースカロライナ州ローリーで開いたイベントに参加したアリソン・エマニュエルさんは「私は何か行動したと言いたいだけだ」と来場の理由を語る。

ではヘイリー氏が共和党候補指名を獲得できるかと質問すると率直に「ノー」と答えた上で、そんなことは気にしていないと言い切った。

これこそが現在の、あるいは最終盤になっているかもしれないヘイリー氏の選挙戦の実態だ。ほんの数週間前まで、支持者や側近らはもしかするとヘイリー氏がトランプ氏を逆転できるかすかな望みがあるのではないかと期待していたが、今はいかなる幻想も抱いていない。

ヘイリー氏がノースカロライナやバージニア、首都ワシントンで過去4日間に開催したイベントに参加した13人の有権者にロイターが取材したところ、11人はトランプ氏の候補指名獲得は確実もしくはほぼ確実と回答した。それでも彼らがイベントにやってきた理由は、トランプ氏への不満を表明したかった、あるいはトランプ氏の登場前に共和党内で人気のあった政策構想への支持を明らかにするためだったという。

トランプ氏だけでなく民主党候補になるとみられる現職のバイデン大統領に対する不満が大きいこれらの有権者は、11月の本選に向けて今後重要な存在になっていきそうだ。

15の州・自治領の予備選と党員集会が集中する5日の「スーパーチューズデー」を前に全米を飛び回ったヘイリー氏は、各地であふれかえった群衆から歓声や支持の言葉を受けることができた。ローリーのある駅で開いたイベントの来場者は1000人を超え、多くの人がベンチの上に立ってまで彼女の姿を見ようとしたほどだ。

イベント終了後もヘイリー氏は人びとが全て立ち去るまで握手を交わし、記念撮影に応じていた。

<伝統的共和党への郷愁>

ヘイリー氏は1日の首都ワシントンにおけるイベントで、トランプ氏が選挙のために集めた資金を自分の訴訟費用に流用していると批判。共和党全国委員会がトランプ氏の合法的な「フラッシュ(トイレの水を流す)ファンド」になってしまう、と言い間違えた後、「スラッシュファンド(裏金)」と言い直した。

すると聴衆からは「最初の表現が正しい」との声が上がり、笑いと拍手が起きた。別の聴衆も「そうだ、フラッシュファンドだ」と相づちを打った。

こうした光景は、党候補指名争いで劣勢に追い込まれたこれまでの陣営に漂っていた雰囲気とはかけ離れている。例えば最終的にトランプ氏が制した2016年の党候補指名レースで、撤退数週間前のジェブ・ブッシュ氏はニューハンプシャーの小さな集会で参加者に、お願いだから拍手をしてほしいと恥を忍んで頼んだほど沈鬱なムードだった。

一方、サウスカロライナの共和党ストラテジストで反トランプ派を公言しているチップ・フェルケル氏の見たところ、ヘイリー氏の周囲には不屈の精神を持つ人が集まっている。

フェルケル氏は「ヘイリー氏が意図したかどうかは分からないが、トランプ氏を望まない人びとに発言権を提供する形になっている」と指摘した。

その1人で、ヘイリー氏のバージニアでのイベント会場で話を聞くことができた航空機パイロットのジョン・ライトさんは自らを「レーガンの共和党員」と称している。

ライトさんによると、トランプ氏は退役軍人を軽んじ、国際社会における米国の地位を傷つけ、性格も人々を不快にさせる。そうした中で、壊れゆく共和党の政治的なブランドの守り手になっているのがヘイリー氏なのだという。

共和党上院トップのマコネル院内総務が11月に退任すると表明しており、トランプ氏の党支配が一層強まるのは間違いない。

ライトさんは「党は完全にトランプ氏が握っている。暴走する列車のようなもので、脱線しそうだ。灰の中から全く新しい政党が誕生してもおかしくない」と述べ、ヘイリー氏敗北後のシナリオを描いた。

ヘイリー氏は3日開票された首都ワシントン予備選で初めてトランプ氏に勝利したものの、各種世論調査によると、他の州で勝てる見込みは乏しい。

それでも陣営はヘイリー氏の勝利をたたえ、広報担当者は「ヘイリー氏は共和党の未来と、財政規律や強固な国家安全保障といった伝統的な保守主義の原則のために戦い続けている。彼女は米国を再び正常にしたいと願う40%の共和党有権者のために戦っている」と強調した。

ヘイリー氏はスーパーチューズデーの後も選挙戦を継続するかどうか明言していない。

しかし継続を決断すれば、熱心な応援団を得ることはできるだろう。

首都ワシントンのヘイリー氏のイベントに参加したクリスティン・カイリーさんも、ヘイリー氏が党候補指名を獲得できる可能性はないと明言しつつ、もはやそこは関係なく同氏が選挙戦を続けるならとことん支持する決意だとしている。

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