「伝統つないで」「いつまでも待つ」と激励 輪島塗再建へ福田屋が訪問販売 支援の思い、売り上げ倍に

顧客宅で商品を紹介する岡垣会長(左)=宇都宮市

 能登半島地震で被災した石川県輪島市の輪島漆器製造販売事業者を応援しようと、長年取引している福田屋百貨店(宇都宮市戸祭元町、福田宏一(ふくだこういち)社長)は2月下旬、本県で輪島市の伝統工芸「輪島塗」の訪問販売を展開した。社屋が被災し、多くの職人も自宅を焼失するなどして当面商品を作ることができない中、福田屋百貨店が事業者を本県に招き、外商担当者と共に県内の顧客宅を訪問して回った。

 訪問販売をした事業者は漆器ブランド「千舟堂(せんしゅうどう)」を展開し、食器などを製造販売している岡垣漆器店(輪島市河井町)。10年以上前から毎年11月、FKD宇都宮店で展示会を開催。2月にも同店の顧客に受注商品を届けたり、新たな注文を受けたりしてきた。

 岡垣漆器店によると、今年1月の地震では、4階建て社屋の基礎部分が損傷し、今も建物は傾いたまま。取り扱う漆器を手がける職人は約40人いるが、その多くは自宅が倒壊したり、焼失したりした。明治時代の蒔絵(まきえ)図案など、貴重な道具が焼けてしまった職人もいるという。FKD宇都宮店の展示会で受注した商品も、未完成だった50点以上は納期が見通せない状況だ。

 製造再開のめどが立たない中、岡垣漆器店は顧客に事情を説明し、また復興に向け、被災を免れた本社の在庫商品を販売できないかと福田屋百貨店に相談した。快諾した同社は、今回の売り上げの一部を漆器店などでつくる輪島漆器商工業協同組合(輪島市)に寄付することも決めた。

 訪問販売は2月19~29日、岡垣漆器店の岡垣昌典(おかがきまさのり)会長(70)が福田屋百貨店外商事業部の社員と実施した。26日は、千舟堂の漆器を愛用しているという宇都宮市の女性(84)方を訪問。被害状況を聞いた女性は飯わんを購入し、「伝統をつないでください」と励ました。

 期間中は約40軒を回り、売り上げは昨年の倍以上だったという。岡垣会長は「納期が遅れているにもかかわらず、お客さまは皆、『いつまでも待ちます』と言ってくれた。元に戻るまで時間はかかるが、職人に新しい仕事ができるよう、在庫を売りたい」と話した。

 FKD宇都宮店では今年も、11月に展示会の開催を予定している。

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