特集は念願の宿泊施設を開いた農家の女性です。施設のアピールポイントは地元食材をふんだんに使った料理。子どもの頃は嫌いだった農業を受け継ぎ、海外のホテル勤務の経験も生かそうと奮闘しています。
野菜の素揚げやナムルがたっぷり乗ったランチプレート。
客:
「おいしい」
窓からは風越山や飯田の街並みが一望できます。
市内から:
「素材の味がゆっくり楽しめておいしかったです。こんな良い所があったなんて、自慢ですね」
こちらは2023年11月、飯田市下久堅にオープンした「Cider Barn & more(サイダー バーン アンド モア)」。
サイダーバーンはイギリスで「農家民泊」を指す言葉です。
宿泊だけでなく1階のラウンジスペースでカフェ営業もしています。
Cider Barn & more・殿倉由起子さん:
「こちらがいろいろなキノコの佃煮、うちで作ってるシメジも入っているので」
営むのは殿倉由起子さん(40)。
リンゴやブナシメジを栽培する農場の2代目です。
Cider Barn & more・殿倉由起子さん:
「皆さん『おいしい』って言ってもらえることがすごく私としてもうれしいし、シメジ、リンゴ、そのほか野菜も作ってるけど、そういったことを知ってもらえるとうれしい」
宿は農業と地域の魅力を発信する場となっています。
農場の長女として生まれた殿倉さん。子どもの頃は農業が好きではありませんでした。
殿倉由起子さん:
「小さい頃から働かされたり、お手伝いをさせられたりとかということがすごく嫌で」
英会話を習っていた殿倉さんは中学生の時に3週間、ホームステイでイギリスを訪れました。
街並みなどが気に入り高校卒業後、イギリスの大学に進学。インターンシップではホテルを選び、そのまま就職しました。
殿倉由起子さん:
「(ホテルでは)いろんなところから来る、そういう方々との話を聞いたり、実際に来てもらって喜んだ姿を目の前にすることがすごく楽しかったです。自分で大好きだな、天職だなって思っていたけど、それがあったからこそ今、こういった宿泊やりたいなと思ったので、それが今につながってるかな」
祖母が亡くなったため帰国し農場を手伝いましたが、再び都内のホテルで働きホテルマンだった健一さんと結婚しました。
転機が訪れたのは2011年。「そろそろ後継者を」と考えていた父親から説得され、飯田に戻ることを決意したのです。
夫の健一さんが農業をやりたかったことに加え、自身も「あること」に気づいたことが決め手となりました。
殿倉由起子さん:
「(イギリス時代に)今まで当たり前のようにおいしい野菜、果物を食べていたこと、それがすごく大事なことだったと思いました。イギリスに出たことによってこの飯田の良さを学んだことが一番大きい。農業をやるのであれば地元がいいなと私は思っていた」
2月19日、飯田市・太陽農場―。
殿倉由起子さん:
「ここ一番初めに初期培養といって、菌をつけて培養させていく場所になります。だいたいここで60日くらいですかね」
殿倉さんは2023年1月、亡くなった父の跡を継ぎ、「太陽農場」の2代目に。
農場はブナシメジの他、リンゴやアスパラガスを栽培しています。
本格的に農業に携わって13年。殿倉さんは2023年、温めてきたアイデアを形にしました。
殿倉由起子さん:
「南信州、伊那谷って野菜・果物があふれている場所。来てもらって食べてもらうことによってこんな野菜もあるんだ、こんなフルーツもあるんだ、こんな食べ方があるんだということを知ってもらいたいな」
好きだったホテルの仕事と再発見した農業・農産物の魅力。
二つ合わせて挑もうと練ってきたのが「体験型宿泊施設を開業する」というアイデア。
建物は敷地の最も見晴らしの良い場所に建てました。
冬は実施していませんが季節に合わせて野菜の収穫体験なども行っています。
そして、料理に使う食材は農場や地元の農家で採れた野菜が中心です。
殿倉由起子さん:
「自分たちが作った野菜、地元産の野菜を使うようにしています。いかに野菜のおいしさを伝えられるかを考えて出してます」
野菜ソムリエの資格も取得―。
夫の健一さんがサポート。
夫・健一さん:
「長い年月をかけて夢がかなったことはうれしいです。お客さんも大半、99%は妻に会いに来るので、妻がしっかりとお客さんと接して楽しい時間を過ごせればそれで十分かな」
オープンして3カ月。カフェは口コミで人気となり、多くの地元客が訪れています。
下條村から:
「野菜の味を感じられたので、すごくよかった。県外にいる友達が来た時にもつれてきたいな」
市内から:
「ニンジンとか菊芋とか甘くてとろとろで、すごくおいしかったです」
農園のりんごジュースの飲み比べ―。
市内から:
「おいしい。粒粒のリンゴジュースなんてあまり飲まないけどめっちゃおいしかったです、また飲みたいです」
殿倉由起子さん:
「お部屋は個室だけど水回りは共用になるので、ここがシャワールームになります」
カフェの営業が終わると宿泊者のチェックイン。
この日は市内の夫婦が宿泊しました。
キノコのソテーに、しめじとベーコンのトマトソースパスタ。
地元の食材をふんだんに使ったコース料理。
リンゴのシードルも―。
宿泊客:
「シメジ、みずみずしくてジューシーでおいしかったです。外から来る人にもすすめたいなと思いますし、地元の友人も誘いながら、また来たいな」
宿泊客:
「地元の食材のことも農家さんのことも知ってもらえるし、いい施設になってほしいな」
故郷を離れて気づいた農業と地元の魅力。
殿倉さんはそれらをこの宿から発信したいと考えています。
Cider Barn & more・殿倉由起子さん:
「この宿を通してその先にある農業のことや南信州、伊那谷のことをもっと知ってもらえるような、そんな場所になってほしいなと思っています」