初めて愛娘を連れて大会に臨む大坂なおみ。初戦を前に「私にとっては新しく楽しい試み」と意気軒高<SMASH>

6年前の20歳の日、彼女はカリフォルニア州インディアンウェルズのセンターコートで、バカラ製のクリスタルトロフィーを抱いた。その思い出の地に戻ってきた元女王は、ゆとりと威厳が共存する空気をまとっているようだ。

ベスト8に勝ち上がった3週間前のカタール・オープン時よりも、身体はフィットして見える。同時に、大会前の会見時にも絶えぬ笑みは、充実した内面の現れだろうか。

「会場には家からドライブして来られるし、今回は娘も連れてきたの。部屋に帰れば娘に会える環境は、私にとっては新しく楽しい試み。家にいるような感じでいられるの」

生後8カ月の愛娘を連れ、BNPパリバ・オープンに参戦する――それは彼女が復帰後から計画し、心待ちにしてきたことだ。

娘が身近にいることで、母親業に追われテニスに集中できなくなるのでは?

そのような問いを向けられると、大坂なおみは穏やかな笑みを浮かべて次のように答えた。

「確かに家に戻ると、私は即座に母親モードになる。でもひとたび家を離れたら、常にアスリートであり続ける。今は、アスリートの私と母親の私が、同居している感じ。常に二種類のエネルギーが融合しているようで、それが最終的に良い方向に向かえば良いなって思っている」

カタール・オープン後は、予定していたドバイ大会を欠場してロサンゼルスに戻り、今大会に照準を合わせてきた。「全豪オープンの頃と変わらず、リターンの練習に力を入れてきた」と言うが、相当にトレーニングも積んだであろうことは、引き締まった身体を見れば想像に難くない。
カロリーヌ・ガルシアとペトラ・マルティッチに快勝したカタール・オープンは、「大きな自信になった」と彼女は言う。同時に、6-7、6-7でカロリーナ・プリスコワに敗れた準々決勝を、かなり悔いているとも言った。

「プリスコワとの試合では、先のことを考えすぎてしまった。イガ(シフィオンテク)とすごく対戦したかったので、それを考えて試合中にも自分にストレスをかけてしまった」

プリスコワに勝てば、準決勝で大坂を待っていたのはシフィオンテク。世界1位との対戦への熱望が、彼女の心身を縛っていた

もっともそのような胸の高鳴りも、今の大坂が新人のような好奇心とモチベーションで、キャリアを再スタートしているからに他ならない。

「今の私のランキングは200位台。それがすっごくうれしいの!」

そう言い広げる無邪気な笑顔にも、初々しい喜びが灯った。

その意味では、今大会の1回戦も趣深い試合になりそうだ。相手は、サラ・エラーニ。元世界5位の36歳は、予選から本戦へと勝ち上がってきた不屈のファイターだ。

大坂とエラーニとの対戦は、2016年のマイアミ・オープン以来。当時18歳の大坂は、第14シードを6-1、6-3のスコアで破り、高いポテンシャルを改めて世に知らしめた。

あれから、8年。共に多くの浮き沈みを経験し、ランキングも立場も大きく変えた2人は、どのような試合を演じるのか?

楽しみな試合が、そして新たな戦いが、始まりの地で幕を開く。

現地取材・文●内田暁

※大坂対エラーニの1回戦は、日本時間の3月8日(金)朝に行なわれる予定。

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