「トランペット・トッカータ」(1964年、ブルーノートレーベル) ドーハムの物悲しい音色 平戸祐介のJAZZ COMBO・36 

「トランペット・トッカータ」のジャケット写真

 季節の変わり目、寒暖差も激しくなってきました。春へ向けて気分は高揚…と言いたいところですが、私は毎年花粉症に苦しんでいます。さて、今回は今年生誕100年を迎えるトランペットの名手ケニー・ドーハムの「トランペット・トッカータ」をご紹介します。1964年、名門ブルーノートレーベルに残した自身最後のリーダー作品となる盤です。
 ドーハムは幼少の頃から音楽の才覚を現し、ジャズシーンでもその才能は高い評価を受けました。デビュー後間もなくモダンジャズの開祖でサックス奏者のチャーリー・パーカー、ドラムの巨人、アート・ブレイキーのバンドに在団し脚光を浴びます。そして天才トランペッター、クリフォード・ブラウンの死去(56年)に伴い、彼の後継としてマックス・ローチ(ドラム)のクインテットに入団。その後は自身のバンドを中心に精力的に活動を展開していきます。
 そんな矢先の64年にこの盤はレコーディングされました。リリカルで時に内向的な響き、ドーハムのプレイとそれを支えるバンドメンバーの堅実な演奏が聴けます。
 ドーハムの魅力はソングライティング能力の高さ。この盤においても1曲を除き、全てドーハムのオリジナルです。この時代特有の、熱くなり過ぎず抑制された知的なジャズの雰囲気が伝わってきます。
 特に「名盤請負人」の異名を取るピアニスト、トミー・フラナガンと、当時シーンで既に異彩を放っていたベーシスト、リチャード・デイビスのサウンドが他にはない新感覚を構築している点が聴きどころです。アルバムの完成度も高く、みなさんにお薦めしたい盤です。
 しかし…。ドーハムにはいつも「物悲しさ」を感じてしまいます。そこが独特の味わいで、玄人のジャズファンにも好まれるゆえんなのかもしれません。前述の通り、天才クリフォードの「後継」としての強烈なイメージ。パーカー、ブレイキーのバンドにおいても不運なことに人気トランペッター、マイルス・デイビスらの「後釜」として入団している点が引っかかるのだと思います。
 常に誰かの後釜…。知らぬ間にレッテルを貼られてしまい、正当な評価を受けることなくキャリアを終えてしまいました。ドーハムの物悲しさのある音色は今やジャズ史上では語り草になっており、集大成的な意味合いもあるこの盤で存分に味わうことができます。
 「自分らしさ」を大切にしたいこの時期、改めてこの盤を引っ張り出してターンテーブルに乗せてみることにします。(ジャズピアニスト、長崎市出身)

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