対策費用は億単位「本業傾く」 災害拠点2病院、津波・洪水浸水区域に 青森・八戸市 #知り続ける

新井田川(手前)近くに立地する八戸市立市民病院
八戸赤十字病院。近くに馬淵川が流れている

 災害時に傷病者受け入れなど緊急対応を担う「災害拠点病院」に八戸市内で指定されている八戸市立市民病院と八戸赤十字病院は、どちらも津波と洪水の浸水想定区域内にあり、被害軽減のための止水・浸水対策が急務だ。だが電気設備の高所移設など大がかりな工事を行った場合、億単位の費用負担が見込まれる。関係者は「災害拠点病院の役割を果たすためには病院の強靱化(きょうじんか)が必要。国や県にはさらなる財政措置を検討してほしい」と訴える。

 八戸市民病院は新井田川近く、八戸赤十字病院は馬淵川の近くに立地し、地図上では病院建物と川岸は150メートル以内の至近距離にある。どちらもこれまで浸水被害はなかったが、八戸市が作成した最新の津波、洪水の両ハザードマップで市民病院は5メートル未満、八戸赤十字病院は3メートル未満の浸水想定区域に含まれている。

 昨年2月、災害拠点病院の指定要件が一部改正され、津波や洪水などの浸水想定区域内の病院は浸水対策を講じることが追加要件となった。既に指定されている病院については現状のままでも当面の間指定が継続できるが、近年相次ぐ豪雨被害や能登半島地震の津波被害を受け、八戸の2病院は対応を進めている。

 「2005年に完成した本館は免震構造だが、浸水対策が頭になかった」。八戸赤十字病院の紺野広(ひろむ)院長は、浸水によって地下の電気設備が使用できなくなることを最も懸念する。同病院は昨年、業者による衛星利用測位システム(GPS)計測によって浸水範囲・深さを把握し、非常用発電機の高所移設、下水の逆流防止弁設置などを検討。しかし見積もり段階で数億円の費用がかかると分かり、二の足を踏んでいる。

 紺野院長は「うちは独立採算なので経営が厳しい。億単位の持ち出しとなれば本業が傾いてしまう」と頭を抱える。経費の一部を補助する国の医療施設浸水対策事業を活用する予定だが、電源設備移設の場合1施設当たりの基準額は約3500万円、補助率は3分の1と低い。中居裕順院長補佐は「その場しのぎの浸水対策では意味がないので、費用を抑えながら最大限の効果を出す対策を考えていく」と語る。

 八戸市民病院は新年度、電気設備の高所移設といった浸水対策について基本計画策定に着手する。担当者は「具体的な対策は専門業者に委託して策定した計画に沿って進める」としているが、財政負担は大きいとみる。同病院を拠点に運航している県ドクターヘリのヘリポートの浸水対策も課題だ。

 八戸赤十字病院の紺野院長は13年前、東日本大震災が発生した翌日に甚大な津波被害を受けた宮城県石巻市に向かい、石巻赤十字病院で膨大な数の被災者の診療に当たった。内陸部の同病院は津波被害を免れ、自家発電で電気を賄うことができた。「被災地の病院がしっかりと初動の医療を行うことで救命率がアップする。人工呼吸器などの医療機器を動かす電気は不可欠だ」と強調した。

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 災害拠点病院 地震や風水害といった災害発生時に24時間態勢で傷病者を受け入れる医療機関で、都道府県が指定する。自家発電機の保有や、水などの備蓄の確保、災害派遣医療チーム(DMAT)の整備などが要件。1995年の阪神大震災をきっかけに整備が始まり、2023年4月1日現在、全国に770カ所ある。

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