【ベトナム】高速鉄道、資金3割外国から[運輸] 財務相、みずほ銀にも支援期待

東京都内で行われたベトナムのホー・ドク・フォック財務相とみずほ銀行の加藤勝彦頭取の会談の様子(ベトナム財務省提供)

ベトナムのホー・ドク・フォック財務相は11日、東京都内でみずほ銀行の加藤勝彦頭取と会い、ベトナムが2027年の着工を目指す南北高速鉄道(首都ハノイ—南部ホーチミン市間約1,550キロメートル)で、事業費の約30%を外国から集める方針を示した。同行にも融資などの支援を期待する発言とみられる。ただ、日本側には同事業の採算性に懐疑的な見方が多く、支援に前向きな発言はまだ聞かれない。高速鉄道を国の重要な交通インフラ事業と位置付ける友好国からの度重なる支援要請に困惑の色が深まっている。

両氏の会談では、みずほ銀の加藤氏がまず、「多くの日本企業が今後もベトナムへの投資拡大を検討しており、当行はこうした企業に寄り添ってベトナムへの支援を続けていきたい」と表明。ベトナム政府が重視するエネルギー分野の脱炭素に向けても「(ベトナムで資本提携関係にある)国営ベトコムバンクと協力しながら支援を拡大する準備はできている」と述べ、ベトナムにおけるグリーンファイナンス事業を拡大していく意向を示した。

フォック氏は、「ベトナムの公的債務比率は(国内総生産=GDPの)37%にとどまっており、インフラ投資の資本を借り入れで賄う余力は十分にある」と説明しつつ、南北高速鉄道建設事業に言及。単独の公共事業としては過去最大規模となる総事業費約670億米ドル(約9兆8,300億円)のうち30%を外国から調達し、27年の着工を目指す政府の方針を説明した。

フォック氏は南北高速鉄道の投資資金について、日本の財務相、外相、政府開発援助(ODA)の実施機関である国際協力機構(JICA)とも協議を続けていくと説明。「同時に(同鉄道事業を支援する)専門家を支援し、日本のODA資金の効率性を向上させていく」と語り、日本の円借款と、日本企業の技術支援を受けながら、効率的に事業を進めるシナリオが念頭にあることを示唆した。

■度重なる円借款要請

南北高速鉄道については、昨年11月末に訪日したボー・バン・トゥオン国家主席が岸田文雄首相との首脳会談で円借款の供与を要請したほか、ファム・ミン・チン首相も訪日時などに岸田氏に複数回直談判するなど、ベトナム政府がたびたび支援要請を続けてきた。

しかし、同鉄道がつなぐ北部の首都ハノイと南部で最大の経済都市であるホーチミン市の間には、観光地として人気の中部ダナン市など一部を除いて集客力のある大都市がないことなどから、日本政府や企業関係者には「巨額投資を回収するめどは立たない」との声が根強い。日本の円借款で整備されたホーチミン都市鉄道1号線(1区ベンタイン市場—市直属トゥードゥック市スオイティエン公園間)も、15年だった当初開通予定時期がベトナム側の事情で大幅に遅れたにもかかわらず、「膨れ上がった工事費を回収できる見込みが立たない」(日本企業関係者)と、ベトナム行政サイドの丼勘定を皮肉る声が聞かれ、南北高速鉄道をめぐる日越間の温度差の一因になっている。

フォック氏は11日のみずほ銀との会談と前後して、東京・霞が関の財務省で鈴木俊一財務相と会談した。同省の発表は「ODAを含む2国間の経済・金融協力、ならびに東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日本、中国、韓国)における地域金融協力について意見交換した」とする簡単な内容で、フォック氏から南北高速鉄道への円借款の要請があったことなどの詳細は公表しなかった。

■中国関与にジレンマも

フォック氏は加藤氏との会談の中で、南北高速鉄道は27年に第1期約800キロメートルの区間を着工後、32年までに完成させ、40年までに残り約700キロメートルを含めた全線の完成を目指す方針だと説明した。ベトナム運輸省は3月中に投資計画案をまとめ、国の最高指導部である共産党政治局に提出する方針で、フォック氏としてはその段階までに総事業費の30%を占める外国資金の一部にめどをつけたかったのが本音とみられる。

政治局は25年中に南北高速鉄道の最終投資計画をまとめる方針だ。26年1月に予定している次期党大会で高所得国入りに向けた目玉事業と位置付けたい意向とみられる。

だが、ベトナムが外国から調達を想定する総事業費の30%は日本円で3兆円弱に上り、1国のODAでは賄えない規模だ。日本政府のODAを呼び水にして、日本のメガバンクからも有利な条件の融資を引き出し、投資計画案の実行性に弾みをつけたいというのがフォック氏の狙いとみられる。

南北高速鉄道にはこれまで、中国の国営企業などが支援に前向きな姿勢を示しているほか、韓国、ドイツ、フランスなどの企業も技術支援に積極的な発言をしている。特に短期間に広大な国土に高速鉄道網を張り巡らせた中国は、ベトナムとの交通インフラの接続にも意欲をのぞかせており、同国政府も技術や資金支援にも前向きだ。

日本が支援に消極的な姿勢を続ければ、中国の関与が強まりかねず、一方で日本には単独で支援を続ける財政的な余力はない。ベトナム政府の前のめりな姿勢によって、外交関係が最上位に格上げされた日本は大きなジレンマに直面している。

© 株式会社NNA